第168話 顛末(3)

「ねえねえ、なんなの~? パパとママ、ケンカしてるの~?」


相変わらずの重々しい空気の志藤とゆうこに敏感に感づいたひなたが朝食の席で言った。



「えっ、」


二人はぎょっとしたが



「け、ケンカなんかしてへんで。 なあ?」


志藤は笑いを作ってゆうこを見るが、彼女はジロっと彼を一瞥したあと味噌汁とすすった。


「やっぱり~~、」


ひなたはため息をついた。


「なんだかしらないけどさあ。 パパ、あやまっちゃいなよ。」


「はあ??」


「とりあえず、夫があやまればまるくおさまるんだって。 このまえ、テレビでやってたよ。」


ひなたは食器を片付けて、洗面所に向かった。




とりあえず


夫があやまれば丸くおさまるのか・・




志藤は小学生の言うことを


真面目に聞いてしまった。




「なあ。 子供たちも敏感やからさあ、」


洗い物をしているゆうこにコソっと言った。


ゆうこは仏頂面で


「・・斯波さんと栗栖さんはどうなったんですか?」


と顔も見ずに言ってきた。


「・・それは・・」


言葉が途切れると、


「二人の仲を修復しない限り。 あたしはあなたとは口をききません!」




はああああ。



志藤は電車の中でもため息をつきっぱなしだった。



これは


ほんまに何とかしないと。





言いつつ。



斯波が謹慎中は自分が事業部のことも責任者となってやらねばならず。


そんな打開策も考えられずに


一日はあっという間に終わってしまった。





こうなったら


強行突破だ!!




志藤は斯波のマンションに向かった。



「なんスか・・いきなり。」


斯波は家で執筆の仕事をしていたようだった。



「・・栗栖を呼んでくるから。 キチンと話し合おう。」


志藤の切羽詰った様子に


「え! なんですか、またもいきなり!」


斯波は慌てた。



「・・このまんまじゃ、アカンやろ! こういうときはなあ、夫(男)が頭を下げれば丸く収まるねん! 世界のジョーシキや!」



あまりの迫力に斯波はおののいた。




萌香は非常に乗り気ではなかったが


志藤がわざわざ来たことで、仕方なく斯波の部屋にやって来た。





しかし・・



志藤は部屋着姿の彼女をつくづく見て、もう一点にしか目がいかなかった。



もう11月だというのに。


このカッコは・・。



半袖の胸元がガバっと開いた、ピチTを着て。



その胸の谷間に


イヤでも目がいくやんか!!



萌香はうなだれた様子で斯波とは目を合わさずに座っていたが。




「・・ほんまに、今回のことはおれが全て悪い。 自分では全く意識してなかったけど、やっぱりああいうことに栗栖を利用するようなことをしてしまって・・」


志藤は二人に頭を下げた。


「・・そんな、本部長は悪くありません。 私は本当にお役に立ちたくて、」


萌香はそう言うが。




って!


やっぱり、どうしても・・そこにしか目がいかへんやん!



志藤は知らず知らずのうちに萌香の胸ばかり見ている自分に気づく。



おれも


あのハゲデブ社長とおんなじやんか!!



そう思うと心底情けなかった・・。

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