第148話 離れても(3)

「な、なんで二人で泊りがけの出張なんか、」


斯波はみっともないことはわかっていても


ついつい口出ししてしまう。


「取締役のお仕事やし。 今回、初めて会う方も多いので私が少しでもお手伝いできればって、」


萌香は言った。



仕事ってわかってるけど!


でも・・




「本部長はあなたが考えているよりもずっと真面目な方です。 そんなに心配しないで、」


見透かされたように言われて、


「し、心配とかじゃなくって・・」


どぎまぎしてしまった。


「そちらはどうですか?」


「え? ああ・・なんとか・・真尋に振り回されながらも・・」


「もう少しですから頑張ってください。」


逆に励まされ




おれはいったい


何のために彼女に電話をしたんだ?



自分に呆れてしまった。



そして


「・・真尋さんに夢中で。 私のことなんか忘れてると思いました、」



萌香のその一言で


胸を一発撃ちぬかれたようになり。


「・・もう、寂しくて。 どうにかなりそうだ。」


思わず本音を口走ってしまった。


萌香はクスっと笑い、


「その一言が・・聞きたかったの。」



いつもの


色っぽい声でそう言われ。


一気に脱力してしまった。



彼女は自分を切なくさせるスイッチを知っている。



別に彼女のことを忘れていたわけではなくて。


本当に


たまらなく会いたくなって。


夜になると


彼女のことを思い出して


寝付けないことだってあったりして。



はあっとため息をついて後ろを振り返ると、真尋が歯を磨きながら背後に立っていたので



「わーっ!!!」


心臓が口から飛び出るほど驚いた。


「・・寂しいんだァ」


とニヤつかれ。


「おまえ~~~~!!!」


顔中が沸騰していく。


「ほんと申し訳ないなあ・・おれのために。 斯波っちのためにも頑張るから!」


無神経に肩をぽんと叩かれた。



カンッペキ。


『彼女』は


仕事関係の子だ。


なんか知らないけど


隠しちゃったりして。


やっぱ


そーなのかなァ。



真尋は疑惑が確信に変わりつつあった。




オケとの練習の後、二人で街をブラブラしていた。


「絵梨沙になんかお土産買ってこーかな。 でも、そーすっと南ちゃんが、あたしのは!?とか言ってうるせーんだよなあ。」


真尋は店のウインドウを覗いたりしていた。



なんか


猛烈に腹減った・・


朝も昼もロクに食ってなかったし


斯波はボーっとして真尋の言葉を聞き流していた。



「斯波っちもさあ、萌ちゃんになんかお土産買って行ったら?」


その問いかけに


「・・あー、ウン・・」


普通に頷いてしまった。


そして


ハッとした。



おそるおそる真尋の顔を見ると


ものすごく


ニヤついて


笑いを堪えている。



-!!



自分のバカさ加減に


呆然とし・・




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