第149話 離れても(4)

「な~な~、いつからなの~? おれさあ、怪しいと思ってたんだよね~。 斯波っちと萌ちゃん! ちょっとお、あんな美女を彼女にして心配じゃないの~? まあ、絵梨沙とどっちがって言われたら・・いい勝負かなあって思うけどさあ、」


真尋は一方的にベラベラと喋り捲った。



斯波はその間、ずうっと彼と目を合わせずにずんずんと歩いていた。


「なんで隠してるの~?」


と、肩を叩かれ、


「べ、別に! 隠してるとか・・じゃなくて・・」


ちょっとムキになってしまった。


「みんな知ってんの~?」



「・・志藤さんと南は知ってるけど・・あとは、わかんねえ・・。」


声のトーンがどーんと下がった。



「別に・・改まって言うことじゃないし・・」


もんのすごく恥ずかしくて。


どうしようもない。


「別に堂々とつきあえばいいのに。 悔しいけどさあ、斯波っちと萌ちゃんなんかぜんぜんお似合いだし、」


真尋はため息混じりに言った。


「え・・」


その言葉にひっかかった。


「おれと絵梨沙なんか『美女と野獣』とか言われてっけど。 まあ、悔しいけど・・斯波っちと萌ちゃんは妥当かなあって感じ。」


「・・そう、かな。」


ちょっと気持ちが


ゆらっと来た。


「二人で腕組んで出社とかすればいーじゃん。 そんなの全然OKだって、」


真尋は笑った。



なんか


目からウロコ


いろんないきさつで


つきあうようになって


周囲の目が気になってしまったのは


事実だった。


だけど


もっと自分の気持ちに素直になって


ちゃんとつきあえばいいのに。


おれって


小さい男だよなァ・・



「で、萌ちゃんに何買ってくの?」


と、またニヤつかれ



それはそれで


腹立たしいんだよな・・



恨めしそうに真尋を見た。




「創天の里谷専務には連絡をしておきました。4時にアポを取ってあります。その後、お食事に誘われたんですが・・」


「ああ、うん。 ぜひって返事しておいて。」


「明日は10時にホールを見学します。 そこにサトウ楽器の佐藤社長もお見えになります。」


「じゃあ、昼はウチがごちそうすることにしよう。 どっか静かそうなところ予約できるかな。」


「調べてみます、」


志藤は萌香の仕事の正確さとすばやさに感心していた。



こっちの意図をきちんと汲んでくれるし、ゆうこはやきもきしているかもしれないが、彼女は秘書としては最高だと思った。



美人秘書、連れてるってだけでテンション上がるしな~。



志藤はふふっと笑ってしまった。


行く先々でうらやましがられるし。


何より


仏頂面したおっさんも彼女を見たとたん態度が変わる。


男ってアホやなあって思うけど。


彼女は最終兵器みたいなもんやなあ。


事業部の仕事だって


彼女が一緒に回るようになってから、いきなり新しいスポンサーが3社もついた。


斯波には悪いけど、これも彼女の才能だと思ってやっていきたい。



「札幌は、初めて?」


志藤は言った。


「ええ。 初めてです。 私・・あんまり旅行とかはしないし、」


「へえ、そうなの? 海外も?」


「一度も、」



意外だった。



失礼だけど


あんな大物の愛人してたってくらいだから


色んなところにも連れて行ってもらったりしてるのかと思っていた。



「んじゃ、これから色んなトコ連れてってやる、」


彼女に優しく笑いかけた。


「はい。」


萌香は嬉しそうに頷いた。


「残念ながら、仕事で・・やけど。」


いつものように冗談を軽く言って笑った。



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