第130話 彼女(2)

「も~~、眠い~~。 めんどくさーい・・」


真尋は寝起き丸出しの格好でリビングにやって来たので、絵梨沙は慌てて、


「あ! そんなカッコで!」


慌ててやってきた。


「あ?」


「栗栖さんが今日は来てくれてるのよ、」


「・・え?」



すると萌香がニッコリ笑って、


「今日は私が真尋さんの一日マネージャーになりました。 どうぞよろしくお願いします、」


ずいっと前に出てお辞儀をした。


「え!!! ホント!」


真尋は一気に目が覚めたようだった。


「マネージャー的仕事は初めてですけど。 これから車でテレビ局まで行きますので。 もうそろそろ出ないと間に合わないので仕度をお願いします。」


萌香は腕時計を見ながら言った。


「仕度でもなんでもするよ~~! そっか~~~!! 今日はツイてる! むっさい男じゃないし! しかも、萌ちゃんだしっ! すぐ仕度すっから! シャワーも浴びてくるし!」


真尋はいきなり張り切りだした。


「・・時間がないので。 シャワーはけっこうです、」


萌香は笑顔でそれでも厳しい口調でそう言った。



ほんと


大丈夫かしら。


真尋ってば


ほんっと


美人に弱いし。



絵梨沙は小さなため息をついた。




萌香が運転席に乗ってシートベルトを締めると、真尋が助手席に乗ってきた。


「・・後部座席のほうがゆっくりできますよ、」


「いいから、いいから!」


と笑ってシートベルトを締めた。


「なんかこうしてるとドライブみたいだね。 テレビ局じゃなくってどっか行きたいな~~、」


子供のような無邪気な笑顔でそう言う真尋にクスっと笑ってしまった。


運転する彼女のスカートから覗く脚を、遠慮がちにもチラチラ見てしまう。


タイトなスカートだったので、座ると膝上15cmほどバッチリ見えてしまい、



たまんね~~


きっれーな


脚・・。


しかも・・


胸元が大きく開いたスーツの下のインナーにも目がいってしまい、谷間が見えそうでみえない感じがまた。




「ね~。 今日、何時ごろ終わるの?」


真尋は言った。


「そうですね・・順調にいって、7時ごろでしょうか、」


「7時かあ。 食事するにはちょうどいい時間だよね。 この前さあ、友達と美味い店発見してさあ。 一緒に行こうよ、」



本当に


直球一本やりで攻めてくる真尋に萌香はおかしくなってクスっと笑ってしまった。


ここに来る前に志藤と交わしていた会話を思い出す。



「あいつ、ほんまに野獣やからな。 気をつけないと。 エリちゃんみたいな美女をヨメにしておきながら自分は二回も浮気騒ぎ起こしてるし、」


「え、本当ですか?」


「ほんまにヘンなトコ連れ込まれそうになったら大声出すんやで、」


大真面目に言われて、それもおかしくて、


「・・彼も大人ですから。 そこまではしないでしょう。」


「斯波には言った?」


「昨日は私が休んだ後に戻ってきて、今朝は直行で行くのでまだ寝ていましたから。 話はしていません、」


「あ、そ・・。 なんかあいつが知ったらめっちゃ怒りそうかなあって、」


「仕事ですから。 なにより事業部の看板タレントですから。 きちんと仕事をしていただきます、」


萌香は余裕で笑った。




テレビ局について打ち合わせとリハを行っていたが


「も、萌ちゃん・・腹減った・・朝メシも食ってないし、」


真尋はさっきからおなかが鳴ってどうしようもなかった。


萌香は手帳に何かを一生懸命書き込みながら


「終わってからにしてください。」


冷たく言い放つ。


「ほんっと・・タイヤキとかでもいいんだけど、」


と縋ると、萌香は顔を上げて


「・・あと30分ほどで本番ですから。 我慢してください。 大丈夫です。 死にませんから。」


きっぱりとそう言った。


「う・・」



タマちゃんや八神ならすぐ何か買って来てくれるのに・・


いや、斯波っちでさえも・・



真尋は彼女の厳しさにたじろぐ。



死にませんからって・・

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