第121話 やきもき(2)
「うん、うん。 イメージどおりやんか~。 美人秘書の!」
翌日。
南の友達のスタイリストに借りてきた萌香の服装を見て、志藤は満足そうに頷いた。
膝丈のフレアスカートのスリップドレス風のワンピースに軽めのジャケットを羽織り、アクセントに首に長めのスカーフを纏った。
「んじゃ、行こうか。」
志藤は嬉しそうに萌香に言った。
「はい、」
そんな二人をおもしろくなさそうに見ている男が一人・・
「も~、また顔怖いって、」
南が後ろから突っ込んだ。
「あ?」
と振り向いた顔がまた怖い。
南はふふ~っと笑って彼の隣の席に座り、
「めっちゃ似合ってたやろ? あのワンピース! 清楚の中にも色気があるっていうか。 そのスタイリストの子もね、萌ちゃん見て、モデルさんかと思っちゃったんやって! ほんまスタイルええしなあ。 ため息出るほどキレイやし。 脚なんかもめっちゃキレイやし。 そのくせ、オッパイも大きくてさあ。 うらやましいったら!」
斯波の背中を叩く。
「なっ・・」
「あんたが赤面してどうすんの。 ・・あたしなんかチビやんかあ? ま、胸はちょっとはあるけど! でも、ああいうカンペキな美女見ちゃうとさあ。 ため息出るよね~。」
コイツは何が言いたいんだっ!
さっさとどっか行けばいいのに!
斯波は本気でそう思った。
「まあさあ。 志藤ちゃんだって。 あからさまに萌ちゃんに何かしようとか思ってへんって。 だってさあ、あの人が萌ちゃん連れてるだけで、絶対噂立つって、」
南は明るく笑い飛ばす。
「う、噂って、」
斯波は少し動揺した。
「ま・・大阪時代のことが尾を引いて。 おんなじような噂、立つかもね、」
「そんな暢気な!」
斯波は
萌香が志藤の秘書になることを、もっと反対するべきだったのではないか、と思い始めた。
南の心配どおり・・
「ね、聞いた? 栗栖さん、志藤本部長の秘書になったんですって。」
「ほんと~? あっやしーよね~。 志藤さん、ほんっと女の子好きだしさあ、」
「また彼女の色香に参っちゃって。 畠山専務の二の舞にならなきゃいいけど、」
二人が連れ立って歩いている姿を見て
女子社員は噂をした。
通りすがりにそれが聞こえてしまった萌香だったが
全く気にならなかった。
自分がどう思われているかは
わかっている。
いくら否定しても
きっとみんなは噂をするんだろう。
だけど
もう
信じてくれる人がいる限り
私は
何にも負けない。
絶対に。
しゃんと背筋を伸ばして、颯爽と歩いた。
「・・みんな噂すっきやな~。」
社を出てすぐに志藤は言った。
「え・・」
「ま、おれがおれやから? 言われちゃうと思うけど。」
志藤はいつものように人懐っこい笑顔を萌香に向けた。
「本部長、」
「おれがなんでおまえを秘書にしようと思ったかって言うと。 別にいい女やからとかじゃなくて。 ま、それもあるけどさ・・。」
と笑った後、
「仕事は正確やし。 速いし。 頭の回転も速いし。 ボールを投げたら、きちんと構えたトコに返してくれる感じがして。 専務から冗談で、南をつけましょうか?て言われたけど。 断った。 だって、あいつ暴投ばっかなんやもん。 疲れる、」
志藤はおかしそうに笑った。
萌香もつられて笑ってしまった。
「だから。 周りのことは気にするな。 って気がついたらおれと栗栖がホテルから出てきた~って噂立ってるかもしれへんけど、」
いつもいつも
こうして、穏やかに飄々と自分を包み込んでくれる志藤が
萌香には本当に居心地のよい場所のように思えた。
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