第118話 再出発(3)

幸せすぎて


怖いって


マンガみたいなセリフ


ありっこねえじゃんって。


思ってたけど。


今のおれは


もう


怖い、というか。


幸せすぎて


どうにかなりそう・・。


まだ仕事を休んでいる彼女は


おれのために


炊事洗濯掃除をこなしてくれて


家に帰るとあったかいゴハンができてて。



なにより


彼女がいてくれることが嬉しくて。



あの


死ぬほどいい女が


こんなにおれに尽くしてくれて


おれの世話を甲斐甲斐しくしてくれて。



夜だって・・




くっ・・



考えるだけで


みぞおちがきゅんとする。




「なんっか・・へんくない?」


南は志藤に耳打ちした。


「あ?」


「あれ!」


南が指を指した先には



意味もなく


ニヤつく斯波の姿だった。


「あんな斯波ちゃん、見たことないよ・・」


「確かに・・」


二人は彼を凝視してしまった。


「・・幸せオーラ出すぎちゃう?」


「家に帰ったらさあ・・あの美女が待っててくれてんねんで。 ああもなるって、」


「なんか・・あの二人、濃厚そうだね、」


南の言葉に



志藤は想像して、ぶっと吹き出してしまった。


「アホ、ほんま・・想像するから、」


彼女の頭をペシっと叩いた。




二人で暮らす準備も着々と整い。


今まで寝室と自分の書斎が一緒だったが、そこにダブルベッドを入れて、自分のデスクはリビングの隅に移動し、6畳ほどの空き部屋を勉強好きな彼女のためにデスクを入れて彼女用の書斎にした。


「私のために部屋まで頂いてしまって、申し訳ない・・」


萌香は恐縮したが、


「そんなの構わない。 リビングだってけっこう広いし、スペース余ってたし。 本が増えてきたから書庫専用の部屋も作ろうかと思ってたし、」


斯波は優しく言う。



ひとりが当たり前で


ひとりに慣れていた自分が


誰かと暮らすという行動自体が画期的、と言ってよかった。


逆に


もう、これからの彼女との生活が


楽しみで


嬉しくてどうしようもなかった。



二人でDVDをソファに座って見たりするときも


ぴったりくっついて


彼女の肩を抱いて。


これ


今までの自分と同一人物?



自分にも問いかけたくなるほど


死ぬほど


甘い生活を送っていた。



「・・ねえ・・」


南が昼休み斯波ににじり寄ってきた。


「なに?」


いつものようにクールにしていたが


「萌ちゃんさあ・・明日っから来るの?」


萌香の話をされたとたん、


「・・う・・ん、」


妙に意識をして、ひとりでドキドキしてかあっと顔が赤くなった。


「・・耳まで赤いよ。」


すかさず指摘され、慌てて耳を押さえた。



そんな斯波の姿に南は指を指して大笑いして


「も~~~! 幸せモノ~!!」


彼の背中を小突いた。


「ばっ・・、か、からかうなっ!」


斯波は動揺ダダモレで・・。


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