第77話 告白(1)

気がついたら


彼女の手をぐっと掴んで


抱きしめていた。



萌香は


目を見開いて。


驚いた。



本当に


彼女は


救われるのか?



斯波はゆうべ志藤に言われたことを思い出す。




ぎゅっと彼女を抱きしめたあと


ふうっと身体を離して


彼女をそのまま玄関の壁に追いやった。




え・・




驚く間もなく


斯波は萌香にキスをした・・



なに・・?



萌香は夢を見ているようだった。



心臓が


大きな音をたてて


ドクンドクンと


その存在がわかるほど


苦しくなるほど


鼓動を告げる。




斯波はふっと彼女から唇を離す。




「どう・・して・・」




信じられないように


萌香は口にした。




「・・好きだ。 栗栖が・・」




斯波は彼女を壁際に押しやって


苦しい


苦しい声でそう言った。



「え・・」



その切ない声を聞いて


萌香は信じられないように小さな声を発した。



「・・おまえを・・守りたい・・」




斯波は


また彼女を抱きしめる。




涙が


知らないうちに


どんどん


こぼれて。



鳥肌がたつくらい


嬉しくて・・




だけど・・




萌香はそっと彼から身体を離した。


「私は・・ダメです、」


「え・・」



「私の本当の姿を知ったら。斯波さんは・・きっと私のことを軽蔑します、」


震える声で言った。


「今、おれの前にいる栗栖は本当の姿じゃないって言うのか?」


「・・本当で・・いたいけど。 許されないんです、」


萌香は手で涙を拭う。


「誰が許さないんだ! おまえの過去がどんなだったか、わからないけど! 今、目の前にいるおまえしかおれは知らない、」


斯波は彼女の肩を掴んで必死に言った。



「・・あの人は・・私のことを諦めてくれません。 どうしても、」


「おれがあの男に言う、」


「え・・?」


「別れてくれるように、言うから!」


必死な斯波の表情に萌香は首を振った。



「ダメです。 そんなことを言ったら、」


また涙が出てしまった。



「・・おまえの過去を・・おれにばらす?」



先回りして


そう言われて、萌香はぎゅっと彼の腕を掴んだ。



「もう、そんなこといいから! おれは、過去なんか・・どうでもいいから、」


斯波は彼女の目を見てそう言った。




萌香は涙を堪えながら


顔をゆがめ、首を振る。




「正直、怖い気もするけど・・だけど、ちゃんとおれは受け入れることができると思うから、」



萌香は体中の力が抜けて


その場に座り込んでしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る