第8話 謎(3)
志藤はオケの打ち合わせに萌香を連れて行った。
彼女はいつものようにムダ口は一言も叩かず
気難しい顔をして志藤が運転する車の助手席に座っている。
「栗栖は・・京都なんやってなあ、」
志藤はそう切り出した。
「え・・」
ちょっと驚いたように萌香は彼を見る。
「おまえの履歴書、ロクに読んでへんかったから。 おれも、京都。」
ニッコリ笑う。
しかし、彼女は全く話しに乗ってこず、
「そうですか。」
ボソっと言うだけだった。
「京都のどこ? おれは嵐山なんやけど、」
尚もつっこむ志藤に萌香は答えなかった。
触れられたくない・・か。
彼女の表情からそう読み取った。
「もうここに来たいきさつも何もかもご存知なら、どうでもいいじゃないですか。」
萌香はため息混じりにそう言った。
「でも、畠山専務はおまえに罪をなすりつけようとしたんやろ?」
「ああ、それも。 想定内ですから。」
萌香は冷静にそう言った。
「は?」
「そういう男だと思ってましたから。」
ちょっとだけ妖しく微笑む。
「彼の出世まで取り上げようとは思っていませんでしたから。」
『逆に彼を利用したんやないかって、』
紗枝の言葉を思い出してしまった。
「言いたい人間には言わせておけばいい。 私は何とも思いませんから。 何も考えずに、チャラチャラと生きてるOLたちと一緒になりたくもないし、何の苦労もなくのうのうと生きてる人たちと同じように思わないで下さい。」
鋭い言葉だったが
初めて
彼女の心の中を少しだけ見たような気がした。
この子は
世間を全て敵に回して
誰も寄せつけず
一人で
こうやって生きてきたんやろか。
その横顔が
少しだけ
寂しげに見えた。
「あと、ひとつ・・」
萌香は志藤を見やった。
「え?」
「『おまえ』って言うの・・やめてもらえませんか?」
意外な一言を口にした。
「は?」
「嫌なんです。 いくら上司とはいえそこまでなれなれしく呼ばれるの。」
ものすごい
拒否状態だった。
今まで女性を
どんだけ口説いてきたかわからない志藤は
ある意味
頭をハンマーで殴られるほどのショックだった。
こんだけ
辛らつに
拒絶されるとは。
部下とはいえ。
かなり傷ついた。
「なにも~? 鬱陶しい。」
南は志藤に言い放った。
「や。 おれも・・枯れたかなあって、」
寂しそうにそう言ってタバコの煙をぷかっと吐き出した。
「何言うてんの。 もう。 アホか。」
腑抜けになったような彼にちょっと笑ってしまった。
あんだけの
いい女。
もし
おれが独身で
あいつが部下やなかったら。
絶対に放っておかないのに。
今まで
どんなに生意気で自信過剰な女も
落としてきたのに。
志藤はだんだん悔しくなってきた。
それにしても
あいつをそこまで頑なにしてるもんは
何なのか。
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