第22話 試練、神か仏か。

 これは試練なのかな、幸い手には浄化の滝の水が入った如雨露じょうろを持っている。

 今は余りに重くて両手で抱えている。


 そうだこの場所こそ清めなくてはいけない。


「ぎゃていぎゃてい はらぎゃてい はらそうぎゃてい ぼじそわか」


 自分でも何を言っているのか分からない、お父さんがお経を唱えている時に聞いた気もするが意味も言葉もさっぱり分からない。


「ぎゃていぎゃてい はらぎゃてい はらそうぎゃてい ぼじそわか」

 同じ言葉を何度も唱えながら如雨露で裂け目に水を撒く、

(恨みを流してください、苦しみや悲しみを水に流してください)

 そう祈りながら水を撒く。


 雨なのか自分が蒔いた浄化の水が巻き上がり雨のように滴るのかいつの間にか全身びしょぬれになって、濃い霧の中で漂っていた。


 自分が吐いた読経が辺りに跳ね返り空間を彷徨い固まり雷雲のように所々で稲妻が走る。


 その雷雲が天を走り地を駆け巡り、最後に全方位にゆっくりと弾け広がりまぶしい閃光を辺り一面に放つ。

 

 白い光が収束すると周りが元の景色に戻っていた。


「ぎゃていぎゃてい はらぎゃてい はらそうぎゃてい ぼじそわか」

 もう一度唱えたら後ろから視線を感じた。


 信太しのださんが立っていた。

「ごめんね、私は人の願いを聞く事しか出来ないの、何の力も持っていない、キメラの方が立派な神様、いや違った仏様ね、悪いものが消えたわ」


「この水のおかげです、滝の神様のお手伝い、、、あ神様だった、私が唱えたのはお経、、、まあいいか私には違いが分からないけど神様もそれで良いみたいだし、少しは清められた様だから、信太さんお願いです後六日間付き添って下さい、まだまだ清めなければ元に戻ってしまう」


「分かるの?悪いものが居るとか浄化の滝の神様とか」

「んー頭に浮かぶだけ、ただの妄想かもしれないし、神様と仏様の取り合わせも変だしね」

「妄想なんかじゃないわ、確かに悪い雰囲気が有ったわ、それがスーと消えていった、神道と仏教は違う教えかもしれないけど元は同じかもしれないわ、人の解釈の違い、伝える人たちの考え方の違い、悪い霊は神も仏も関係ないのよ」


 気が付けば如雨露が手元から消えていた、何処までが起こっている事でどこまでが幻か分からない。

 いやもう此処は神の世界すべてが起こった事ですべてが幻、そう思うしかない。


 信太さんがわたしの手を取り立たせて歩き出す。


「信太さん楽になりました?」

「もちろん、冷たい水なのに何だか温泉に入ってる気分、何時でも来られたらね良いのにね」

「そうそれです、何だか体が芯からポカポカしてくるんです、って何時でも来れないんですか」

「そうね、『御用の無いもの通しゃせぬ』」


 通りゃんせの節でそう言った。

 続けて私。


「『行きはよいよい帰りはこわい』なんか不思議な歌」

「ともかく今は神様の御用で通されている訳で、、、もしかすればキメラが頼めば残してくれるかもね、断言できないけど」

「竜神様かでも姿は見てないし言葉も聞こえない、なぜ竜神様って思えたのかな」

奥津姫おきつひめが導いてくれたんじゃないかしら、興津姫は台所の神様だから家の中の事に関わる神様、今回は気に掛けているキメラが巻き込まれたから助けてくれた筈よ、実際のところ私は何も分からない、端くれも端くれなんだからね、もしかしたらあやかしかも知れないわ、この訳の分からない体を持ってるんだもの」


 ドンと胸を叩く、幾分回復している様子。

「そう言えば今日は奥津姫は出てこなかった、昨日も途中で居なくなったし」

「ほかの神様が見ているから大丈夫と思ったんでしょ、それに一人の人間に取り入ってるなんて神として知られたくない事よ」

「そっか、それなら今度興津姫が現れたら何かお礼しなくちゃ」

「それよりあなたのやったことしっかりと話してあげたら喜ぶわ、奥津姫の秘蔵っ子なんだから」

「秘蔵っ子、、、わたしが?」

「目を掛けるってそう言う事よ」




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