影の仕事はカフェの店長見習い?人生経験六年未満女子

一葉(いちよう)

第1話 みにくいアヒルにもなれない子

 その日の朝、毎日通学に使っている古めかしい商店街の入り口が工事用の柵でふさがれていた。


 その先をのぞいてもいつものように数件の店が半分くらいシャッターを上げ開店準備を始めているだけで、人の姿は見えないし道路工事を始めている気配もない。


 事情を察するなんて事がいっさい出来ないにぶい頭の私は次の通りを迂回することにしてそちらに歩き出す。


 右に歩いて三軒目と四軒目の間に細い路地が有るのに気が付いた。

(こんな所に道が有ったっけ)


 記憶力の弱い私は考えても答えが出ないのでためらわず足を踏み入れた。


 なんとも古めかしい路地だ、ひと昔かふた昔の景色の気がする、知らないけど。

 幅が一メートルくらいで舗装もされてない。


「カラオケ いろは」「酒処 にほへ」「スナック ちりぬ」

(大人の人の世界みたい、どうりで知らないはずだ)


 何軒か進んだところで高さ50センチ幅は10センチもないほどの小さめの看板「炉端焼き をわか」が目に入った、夜に明かりが灯らないと気が付かないような目立たない看板が。


 ビクッと体に電気が走る。(逃げなきゃ!)


 頭の中で警報が鳴り響く。(だめ思い出しちゃいけない、不幸が襲ってくる)


 走りだそうとした時に地面から顔を出していた小石につまづく。


「バタン」音が出そうなほど見事に地面に叩きつけられた、かろうじて顔の所に掌が有ったので顔面だけは直撃を避けられた、たまたま。


 私は運動神経が鈍い、無いと言っていいほど。


 ゆっくりと立ち上がる、これは仕方のない事だと自分に言い聞かせながら。


 中学生になったものの私にはほとんど記憶がない、昨日の事さえどころか家に帰れば今日学校で何をしたのかほとんど覚えていない、思い出せるのは席に座っていたことくらいだ、こんな私でも九九を繰り返し繰り返しやっと二段目をゆっくりと言えるようになった、でも一日でも間を開けたら忘れてしまう様なかがする、家に帰ったら又九九しなくちゃ。

 

 あれ?私今何か急いでたんじゃなかった?

 声に出して言ってみる。

「えーと私は今急いでいました、何に急いでいたのでしょうか」


 でも答えは返ってこなかった、倒れた拍子にすっかり忘れていたのだ。

 これが私。


 少しだけ言い訳をさせてもらえるなら私は5年生までずっと病院に入っていたらしい。

 らしいって言い方は変だけど私には病院で過ごしたひと月ほどの記憶がほんの少し残っているだけ、何故ってそれ以前は病院のベッドでずっと眠り続けていたから、お母さんに尋ねたら6年ほど眠り続けていたらしい、ある事故によって。。。


 あっ思い出しちゃったと言うより忘れた振りをしているだけ自分自身に対しても。


 わたしは両親の手で川の土手から突き落とされた、いや正確には蹴り飛ばされたんだ、土手の上から空を飛んで河原の石がごろごろしている所まで、それ以降の記憶がない。


 ただ蹴られる前の事だけは覚えている。

「こんな化け物私の子でも何でもないわ捨ててしまって!」

「ああバカな事口走ってるしな」


 そうだった私は化け物だったんだ。

 私の家には赤ちゃんくらいの子が何人もいたすべてこの両親たちの子、だけど触る事は出来なかった多分私だけにしか見えなかったんだろう。


 私はあの日母に聞いてしまったんだ「おかあさんこの子達お母さんの子でしょ、どうして知らんぷりしてるのどうして御飯食べさせてあげないの」


 そのあとすぐに河原に連れて行かれたんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る