スライムすーちゃんヒトと住む

種・zingibercolor

プロローグ 既知との遭遇

水分に困らず、有機物もそれなりにあるので、移動には下水道を使ってきた。しかし、これからはそうも行くまい。細菌やウイルスの心配があるし、相手は下水道特有の悪臭をことさら嫌がるだろう。出来れば上水道に移動して、そこから改めて移動したい。

体内と体表の殺菌消毒は念入りに行ったが、もう一度点検する。上水道に入るなら、どんな汚れも持って行くべきではない。

真夜中を待ち、マンホールの穴から地上を見る。星も月も見当たらない昏い空だが、遠い街灯の光量があれば、視界を確保するには十分だった。一番の懸念は、無関係の人間に発見され、周囲を騒がせてしまう事だったが、時間帯と視覚からの情報を合わせると、その心配はなさそうだ。

穴から全てを出すことは出来なくもないが、手早く済ませるに越したことはないので、マンホールの蓋を少し持ち上げてずらし、その隙間から出来るだけ素早く自身を流し出す。全身を地上に出してから、最終的な目的地を見上げると、想像よりすぐ側にあった。

上水道を辿って目的地を目指すより、このまま地上を移動して、目的地に繋がる貯水槽に入ったほうが早いかもしれない。いつも蓋が開いているような環境ではないことは知っているが、人間の手による定期的な管理が必要な設備だそうなので、内部に侵入することは難しくないだろう。

アスファルトの上で移動を始める。目的地がある建物につき、壁を登り、貯水槽がある屋上に体のすべてを持っていく。ここで見つかればすべてが終わりなので、非常に気を使った。

貯水槽の周りに揺蕩って、しばしその設備を探る。上部に蓋らしき箇所があり、そこをしばらく探ると、開くとまではいかないが、入り込むのに十分な隙間が出来た。これまで地面を這ってきたせいで付いた土埃などの汚れを念入りに体表から捨て、できるだけ急いで全身を中に流し込む。最後に蓋を閉め直して、これで多少のことでは人間に見つかるまいと、やっと気を抜くことができた。

水の中に浮かびながら、もう一度、自身を入念に調べる。殺菌消毒よし、汚れ落としよし。

そして自切の準備を始めた。何度も練習して、必要な機能を備えながらもごく小さいサイズに収める事には成功しているが、本番でうまく行かなければ意味がない。思考のすべて、多少の蓄え、消化吸収能力を一部に片寄らせ、全てに問題がないことを確認してから、片寄らせた部分を本体から切り離した。これで、目的の部屋まで水道管を伝って移動する難度が大幅に減少し、なおかつ使用者を驚かせる可能性が低くなる。

念の為に自切部分をまた点検する。万が一にも細菌やウイルスを持ち込んではならない。先程、本体ごと点検したが、何度しても足りない気がしてしまう。切りがない。3回目でそれに気づき、努力して点検のことは考えないようにした。

目的の部屋の位置は判明している。最上階の角部屋。つまり一番遠くまで水道管を辿っていけばいい。そこまでたどり着けば、後はタイミングを待つだけだ。

自切部分を薄平たく伸ばし、水の流れを妨げないよう気をつけながら、少しずつ目的地までの道を行くことにした。

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