インブィズィブボックス
川直輝
第1話始まりは泥道から
新庄拓篤(しんじょうたくま)大学生現在一回生の新入生としてサークル歓迎会の真っ最中である。俺は別にサークルにも入る気持ちすら無かったが、こうして謎に先輩からのお酒に付き合わされている。
「おい、拓篤瓶ビール三本追加な!」
先輩は僕の肩を叩きながら陽気な笑顔で頼む。この先輩はかなりお酒が弱いと評判でこの歓迎会が始まる前に、お酒が弱い奴はこの先輩の側いたら先に潰れるから安全圏だと聞いて僕はこの先輩の側に座っている。年齢的にも俺はまだお酒が飲めない歳だし、強制的に呑まされることはないが流石に飲まないと叱られたり場の雰囲気が悪くなってしまう。だから一様カシスオレンジと言うオレンジジュースをメインにカシスを混ぜているいわゆるカシオレといった比較的呑みやすいお酒を頼み、先輩に合わせている。しかしこの先輩は言葉や態度は酷いが顔やスタイルはなかなかいい、理系の三回生で意外と周囲からは評判があるらしい。内面がガサツだったり少しと言うか、かなり男っぽいことがもてない理由でもあるらしい。その先輩は周りから理科先輩と呼ばれていて男女関係偏り無く仲が良い。
「理科先輩あんまり無茶すると帰れなくなっちゃいますよ」
「いいや、まだ少しなら飲んでも吐かないから」
もう既に吐くことが前提なのか。理科先輩はオフショルの紐を肩にかけ直すが再びずれて際どい大人の雰囲気を漂わせている、が顔色はますます悪くなる一方だった。
瓶ビールを片手に持ち何十人が大はしゃぎしている中、頭をカクカクさせ眠りにつこうとしていた。俺は何回か友達に話を聞いたことがあった。お酒で酔っている時に眠ると起きると酔いが増して吐くことが多いと。友達が調子に乗って初めて飲んだ時の話だったと思う、まあそれが今目の前で起きようとしているのだが。
俺は理科先輩の肩を揺すり大丈夫ですかと声をかける。それは側からみても大変そうに見えたのだろう。このサークルのリーダーが駆けつけてくれた。
「大丈夫そうかい?理科子」
「かなり顔色は良くないと思います。言葉数も減ってきていますし」
さっきリーダーがいた所からリーダーと呼ぶ声がする。一番の人気者で良き先輩だ。優しく気配りができ面倒見も良い、それに顔もイケメンで出来すぎて怖いほどだ。俺も本当の名前はまだ知らないが、いつも周りからはリーダーとしか呼ばれていない。普段からいつも違う人たちが側にいるイメージで人気者だからこそ常にいろんな人から求められる存在なのだろう。
リーダーは少し急ぐようにして元に居た場所に戻りながら言う。
「あーあまり喋らなくなった時はトイレに連れって行ってあげた方がいいよ。新庄くんも気おつけてね」
「ありがとうございます。」
本当にできた人だな、こんな俺の名前まで覚えているなんて。
出会って一時間程度しか経過していないのに、多分俺だったら三回程度は名前を聞き直し呆れられている、そう心で関心していると、隣から『うっぷ』と縁起の悪い音がした。
そうその時にはもう既に遅かった。先輩の言うとうりにさっさとトイレに理科先輩を連れて行けば良かった。俺の股は暖かくなり次第にジーパン越しでも分かるほど重みが来る。
理科先輩はそれはそれは悲しそうな表情で目には涙やヨダレや怪しい物体を口の周りに付けたまま俺の方を向きこう言った。
「ごめん」
優しく笑顔で俺は言う。
「あはははは、いいで」
聞いてもらえないまま、第二陣が理科先輩に口から物体がドシドシと現れたきた。
周りは当然の如くはしゃぎ俺と理科先輩のことなんて気にもしない。そう思い返せば初めから怪しかったんだ、この新人歓迎会のことをジーパンの暖かさを感じると共に思い出す。
大学の講義中のことだった。
扉がゆっくりと開くのが見える、始まって十分程度は遅刻で二十分を過ぎると欠席扱いになる。だからこのタイミングはまだ遅刻だから扉が開くことは何もおかしくはない、だがそこから入ってきたのは幸太郎だった。
佐々木幸太郎は中学生の時からずっと一緒で高校三年間はクラスまでずっと同じだった、社交的で人懐っこくいい性格をしている。これは悪い意味でだ、社交的で人懐っこさを上手に使い分けどんな時も必ずいいポジションを取っている少し意地悪なやつでもある。別に嫌いではないが何かとそれをいいように使い俺のことを遊ぶ節があるのだ。
幸太郎は息を切らせながら俺の隣に座る。
「おはよう、珍しいな遅刻なんて」
幸太郎は鼻から長いこと空気を吸い込み『はぁーあああ』と息を切らして鼓動が早まっているところに強制的に戻した。
「おはよう拓篤」
弱々しくヘラっと笑うが目がまだ起きていない、つぶってはいないが開いてもいない、俺はどうして幸太郎が疲れているのか全く分からないから首を傾げた。そうすると幸太郎は何か意味深な笑顔をした、今のは目だけは閉じていたが確実に思考が回っていて、しっかりと起きている時の笑顔だった。
「なんだよ?」
「拓篤今日は何か用事ある?」
「いや学校があるだろ」
幸太郎はむすっとした、なぜ今の受け答えだけでむすっとされなければならんのだ。
「はぁ、相変わらずだね拓篤は。どうせ彼女も作らず、お金も使わず、ただひたすらアルバイトに勤しんでいるだけとかかわいそうだよ」
「うるさいな、人の勝手だろ。そもそもかわいそうとゆうな、本当に悲しくなるだろ」
「仕方がないなー今日は僕が付き合ってあげるよ」
そう言いながら俺のほっぺにボールペンの先で突いてくる。
正直うざいがもう慣れた、毎回対応していると俺の体内のどこか分からないがエネルギーが減ってしまうのだ。もしこれがハイオクならば生命エネルギーで支払っても足りないくらいだと思う。この長い付き合いの中でこいつとはまともに過ごしていたら絶対に俺が早死にするレベルである。
「お前が今日暇なだけか」と言ったのと同時くらいに学校の変なチャイムがなる。ここの大学のチャイムは特徴的で学校の校歌から取っているらしくて、普通のチャイムの何倍速も早めた感じのイメージである。今はもう気にならなくなったが、もはや入試の時は一回一回なるごとに背中が硬直していた。
「このチャイム本当不思議だよね」
幸太郎は嫌な顔なんて感じ取れない、逆に清々しいと思っている風な表情であった。
「なんでこのチャイムを聞いてそんな表情ができるんだ、普通こんなチャイム嫌だろ」
幸太郎は『ん?』と声にはでていなかったが、何言ってるの?みたいな表情で俺のことをみる。それは俺も同じことだ、俺も幸太郎もキョトンとしあう、それは同時過ぎて阿吽の如く時が止まったのかと思うほどだった。
「えっ?まさか拓篤なんでこのチャイムか知らなかったの?」
「はぁ知るわけないだろ、どこで聞いたらいいんだよ」
なぜか分からないが腹が立つ、この変なチャイムを理由すら判らない状態なのはまだ許せるが俺以外がこの変なチャイムの理由を知っていて俺だけが知らないのは流石に嫌だ。そもそもそれを今意味があるとゆうことに気がついてしまっては今後に響くだろう、と思い幸太郎の腕を掴み逃さないようにした。こいつは意地悪なやつだ、絶対にすぐには教えてくれない。それは母親が遠足の弁当の中に俺の苦手なピーマンを入れてくるくらい、分かっている。いち早く教えてもらいたい。じゃないとこの変なチャイムを聞く度にこのチャイムに意味があるのだ、と意識して気になってしまうじゃないか。
幸太郎は勢いよく腕を引く、すると幸太郎が着ていたジャケットの袖だけを俺が一生懸命掴んでいた。
「おい、逃げるなら今日は無しだからな」
最終手段は約束破りと何だかんだ大人げがない行動だが、まだ一限だ今からだったら長い話でも昼休みに聞ける、このまま逃がしては今日一日はずっとムズムズ気になりながら何度も変なチャイムを聞かなくてはいけない。それだけは避けたい。
幸太郎は逃げようとしていたが体がピクリと止まった、余程今日が暇で相手がいなかったのかと思っていると幸太郎は思わぬことを言う。
「よし、いいこと思いついた。僕のバスケットサークルに入ってくれるなら教えてあげてもいいよ」
「なぜそなる?」
「だって、拓篤友達いないでしょ」
残酷な言葉を友人幸太郎が直接面と向かって放った。
そう入学式から早三ヶ月、もうすぐ夏休みが近ずいている。理解はしていたが高校が同じ幸太郎以外は話しすらした事がなかった、決して俺がコミュニケーション不足とかそう言ったぼっち体質でもない、仲良く話したりすることは然程余裕である。幸太郎も心配はしていてくれているようだ、入学式から一ヶ月ほど父親の命が危なくて学校どころではなかったのだ。そして一ヶ月後に学校に来てみれば何が何やらよく分からないことだらけの中俺はしっかりぼっち生活の始まりであった。大学は教室と言うものがない、それはイコールでクラスが存在しないのだ。クラスに最も近いのが、ゼミと言った自分がしたい研究テーマを持つ教授のもとで大小と人数はバラバラではあるが集まり研究していくのがゼミなのだがここの大学は三回生になってからゼミが始まるらしい、よって俺は三回までぼっち特待生確定ってわけだった。
「いない」
現実はそんなものだ、大学生にだってぼっちになるだろ、別にいいじゃないか一人でも楽しいことだってあるさ。例えば・・・スマブラ?あれは違うか。考えるだけ悲しくなる。
「じゃあ決まりだね、今日は新人歓迎会があるから一緒にいこ」
そう優しく笑いながら誘われると断りずらいじゃないか、この卑怯者め。
「分かったよ」
初めてのサークル勧誘は友人からで参加するのは今日と中々形だけはスムーズに決まったって一瞬忘れてしまっていた。そうこうなったのは変なチャイムのせいだ。幸太郎にそれを聞こうとさっきまで幸太郎がいた場所に目を向けるがそこには居らず、リュックを肩から背負いながら颯爽と走っていく後ろ姿だけが見えて消えていく。もう7月に入る、幸太郎はバイクで大学に居ているからこの時期でもジャケットを羽織っているのだろう、残して行ってしまったジャケットを回収した。
絶対に昼休みに幸太郎を探し出して問い詰めてやる覚悟を決めて次の授業の教室に向かった。
そして、今日の授業が全て終わった。全部終わった。しっかりと変なチャイムが鳴る度になんでこのチャイムなんだろう、と胸の突っ掛かりがあった。全部あいつのせいだ。昼休みは忽然と姿を消しやがって、あいつは幻のシックスマンか何かなのか。
一様この後はサークルの新人歓迎会だからって場所も時間も分からん。と思っていると俺のスマホが光った、幸太郎からのメッセージだ。
拓篤は学校前のコンビニの前で集合な、とだけ書かれており色々教えて欲しいことはあったが素直に大学前にあるコンビニに向かった。
そこには、大学生がうじゃうじゃといた。普段から大学生はここのコンビニに溜まりやすいが今回は二、三十人といてパッと見ただけでわかるサークルか部活動の人が集まっているんだなぁと。しかし俺には関係のないことである、今から俺が待つのは幸太郎のみで、幸太郎がいないなら関係のないことだ。
ここのコンビニは駐車場が広く大所帯の大学生はコンビニに入る人の邪魔にならないようにと駐車場側に寄っていた。
俺はその団体を視界に入れずにコンビニに取り敢えず入り、入口手前のレジをふと見た。大学生が並んでいるのを嫌な顔をせずに黙々とレジに来る客を捌いている女性に俺は目が離せなかった。愛想よく素敵な笑顔でダラダラと大学生だけが作る行列がひたすら続いていた。よくもまあイライラしないもんだなぁと普通に関心してしまう、その女性はスレンダーでどこか奥ゆかしさがあり年も俺とそれ程差は感じられないのに、と見ていると背中を何か硬いもので刺される感覚がある。突然過ぎて感覚は把握出来なかったが然程痛みは感じられない、後ろを振り返り見ると幸太郎がボールペンで差しながら笑っている。本当こいつはいつか絶対に俺が刺してやると心に決め睨んでやった。
「そう睨むなよ、邪魔してごめん」
「すまん、なにを言っているのかさっぱりなんだが?」
「理科先輩を見てたんじゃないの?」
さも当然のように名前を出す幸太郎に少し驚きが隠せなかった。それを察したのか幸太郎がニヤリと笑いながら言う。
「あの人バスケットサークルの先輩だよ、良かったね」
正直に言うと少しだけ嬉しかった。あんな美人な人が居ると思っていなかった、いや正直新人歓迎会に参加する気分が上がる理由には十分だった。
そして幸太郎が俺の腕を引っ張りコンビニの外に連れ出すと、さっきまでいた集団の方に向く。
「おいまさか全員?」
俺の小さい声を幸太郎は拾った。
「そうこの人達がバスケットサークルさ」
そうだった。始まりはよくも悪くもみんなと仲良くなれるなら問題なんてなかった、新人歓迎会とゆうなの罰ゲームだと知らずに俺はこのサークルに飛び込んでしまったのだ。どんな綺麗事にも裏がある、そして人知れず誰しもが本当のことを言っているわけなんてありえない。隠し事は当たり前、嘘も偽りも当然のことだ。
ふと我の戻るとまたジーパンの暖かみと重みが親身に太もも何に伝わって来る、あーそうだった。幸太郎が俺のことを誘った時点で築くべきだったのだ。
常に俺にちょっかいをかける幸太郎が何も予定なしに誘うわけが無いじゃないか、作家アガサクリスティーよりもシャーロックホームズの方が有名なくらい当たり前のことだったぞ。がっかりしていると俺の隣の奴が俺に話しかけてくれた。
「これはやばいね、うっぷ。なんで君今回出席なんかしたの?おっとごめん私、うっぷ、長谷川春香ってゆうの、うっぷよろしくね。同じ一回生でしょ君」
見るからにもらいゲロしそうな状態だったため、あまり俺のまたにある物体を見ないように顔を離していた。髪の毛はポニーテールで細身の顔立ちはおしとやかな子である、バスケサークルよりもバスケット部の方が似合いそうな本格的にバスケットボールをやっていた感じ雰囲気からでも分かる。がそれよりも気になる言葉が俺の脳みそで引っ掛かった。この状態だから頭の回転が鈍っているのかも知れないがやはり言い方が変だと思い聞き直した。
「俺は、新庄拓篤よろしく。ごめんもう一度聞くけど出席がどうしたって?」
「もしかして何も知らずに参加したの?それで理科先輩の隣に?新庄君はすごいハズレくじを引いたみたいだね」
なぜか彼女は言葉だけは驚いてる風だけど、表情はしっかりと俺を見て笑っている。長谷川は幸太郎と同じ匂いがすると思いムッと睨んだ。
「ごめん新庄君、この新人歓迎会はこれが二回目なの。それで理科先輩一回目の記憶がないからやり直しって言ってもう一度やることになったんだけど誰も理科先輩に近付こうとしないのは目に見えてるから誰も周りに来なかったのよ。一回目はその感じだと新庄くんいなかったんだね」
あら〜恥ずかしいー、見たいな目で長谷川が俺のことをニヤニヤと見て来るのに腹がたったので、俺の股にあった物体を理科先輩から拝借し長谷川の目の前に見せてあげた。
案の定、見てもいなかった時でもギリギリだった長谷川は俺の手のひらに乗っている物体を見てもらいゲロをした。まあそこまでは俺が想像していた通り何だが長谷川は俺の方に向かって吐き出し左側は理科先輩そして右側からは長谷川のゲロをかかるハメになってしまった。周りの声が聞こえは心配よりも本気で引いている様子の声音だった。
「おい、まじかよ」「地獄絵図だな」「気色わる、見てるだけで吐きそう」と散々な言われようだった。
俺の大学サークル活動の始まりとしては最悪で最悪のスタートだった。
唯一喜べるとしたら大学で知り合いが三人も増えたと言う所である、その内二人からゲロを喰らったことは一生忘れない。
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