運営06:アーカ・イヴ
「死したるソシャゲの亡霊どもが、ついに殺し合いを始めたか」
何者かの声が電子の海に響き渡る。はたから見れば、悪辣な傍観者のそれであろう。
「この十年でリリースされ、そして消えた千の物語をここに集めた。誰しもが死にたく無いと希い、生き残ろうと足掻いた末の末路がこれだ」
交錯するのは幾つかの声。されどそれらの主の顔は見えず、そもそもどれだけの人数がこの空間に屯しているのかすら分からない。
「しかし実に似たり寄ったりな面子だ。個性など微塵もないが、その癖どいつも個性を売りにしているというのだから、滑稽だ」
「そんなものだよ。人々は真の斬新さなど求めてはいない。気軽さこそが重要なソシャゲにあって、一から知恵を絞り出す奇抜さが万人に受け入れられる訳もないのだ」
「個性を求めるが、そのくせコミュニティからはみ出す事を過度に嫌う。この国の国民性とも言えるだろうよ。主人公としての責任は負いたくないくせに、主人公の雰囲気だけは味わいたいという。個性を選ぶ自我も無いくせに、なんとなく個性的なのだと思い込みたい唾棄すべき怠慢」
「かまうまいさ。どのみち我らに与えられたのは、結末を見届ける義務だけだ。千の物語の墓標の上に、次なる時代の資源が生まれるならば善しと、上の意向はその程度だ」
「然り。理解はしている。とは言え首尾は順調なのだろう。覚えるにも飽いた有象無象。いったいどれだけ数が減ったか」
「ロストロア・ロワイヤル。開始から一日で既に半数以上が脱落、消滅しました。一部には原作を解散し、同盟を組むといった動きも見られますので、誤差は数十といった所でしょう」
「同盟などと。最後に生き残れるのはたった一ゲームだという事実を、連中は理解しているのかね。いや、最後に殺し合うとしても、今を生き延びねば明日がないという現実的な判断に即したということか。たかだかキャラクターの分際で小癪なものだ」
「いずれにせよ興味深い事案でしょう。急造とはいえ、それだけ自我の目覚め、成長が早いという証左でもあります。この経過そのものに、上もお喜びにはなるかと」
「ふん、くだらんな。死体をいくら泳がせた所で所詮は死体だ。ゾンビが生者以上になる事はない。私はそれを証す為にこそ、この馬鹿げた喜劇の観測者を買って出た」
「ならば見守ろうではありませんか。生きようとする意志は、足掻こうとする抵抗は、消えゆく命の刹那の火花は、何であれ美しく尊いものなのですから」
「分かっている。次回のミーティングは翌朝だ。二桁台にでもなれば、観測も容易になるだろう。散開」
最後に響いた声を合図に、それ以上の言葉もないまま反響は消えていく。ロストロア・ロワイヤル一日目。1024件中、611件のソーシャルゲームが既に脱落した。
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