終焉戦記 - ロストロア・ロワイヤル -

糾縄カフク

陣営00:ロストロア

 ――諸君らは悲しくはないのかね。


 どこからか声が聞こえる。その声がどこから聞こえるか分からぬまま、空を見上げる幾千の瞳が、おぼろげに宙を泳ぐ。


 ――ラスコーの壁画が二万年。ナスカの地上絵が二千年。ローマの遺跡が、中世の絵画が、近代の建築が、現代のアートが、幾百年、幾星霜を経て歴史に名を残すにも関わらず、諸君らは、だ。


 声の語るあまりに遠大な時の流れに、おそらくは誰しもが意図を読めず閉口したろう。なにせ我らは、或いは彼らは、生まれて数年に満たない物語の群れに過ぎないからだ。


 ――諸君らは、時代の先端に産声をあげし諸君らは、どの媒体にも記録を留める事なく、電子の海に死に、今や消え去ろうとしている。それが、悲しくはないのかね。


 いいや悲しい。そうでない者などあろうものか。我らは、彼らはきっと願った。一日でも長い存命を。世の謳歌を。物語の引き続きを。


 ――機会をやろう。生き延びようと願う全てに。不本意に終わりを迎えた、君ら全員に。


 どうやら一部の者が真意に気づいた。そこからさらに一握りの者が、訪れる結末に想像を馳せた。


 ――生き残ったたった一篇に、続きを紡ぐ権利を授ける。さらば殺し合い給え。すでに死したる、薄命のロストロアよ。


 ああ、こうして。

 そう、こうして。


 我らの、彼らの、殺し合いロアイヤルは、始まってしまったのだ。

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