第26話 屍人

 

 私達が七の王様を祀ったのは、楠さんが建てた鉱石の谷底の祭壇だった。


 暗がりにそびえる祭壇は谷底まで来ないと発見されないと言う考えの元、王様ははりつけにされた。


 十字架の前まで王様を連れていくと、枷が勝手に浮いて生贄を連れて行ってしまった。便利に出来ているものだと実感する。


 意識も無いまま生贄にされた王様の気持ちは予想出来ないし、生きている心地もしているか疑問なところだ。


 楠さんは王様の意識、視覚、声帯の宝石を十字架の根元に並べていた。


いびつね」


 楠さんの声を拾って自然と頷いてしまう。彼女はきびすを返すと、祭壇内を観察するように歩き始めた。細流さんは彼女に近づいていき、何やら話し始めている。


 私はひぃちゃん達を抱き締めて、顔を上げた。


 見上げた先にいる王様は制度に従って奴隷を集め、それが同族であればより良いと思っていた方。彼にとってはそれが正しかったのだけれども、その正しさを奴隷の方々や私達は理解出来なかった。


 それだけだ。


 私は目を伏せて、震えていた自分の手を嫌悪した。


「凩ちゃん」


 髪が引かれる。その流れに身を任せて振り向くと、笑顔の結目さんがそこにいた。


 今日の機嫌はどうなんだろう。彼は目に見える表情が全くと言っていいほど当てにならないので、感情が汲み取りにくいのだけれども。


 結目さんは王様を指し、さも当たり前と言わんばかりに笑い続けた。


「お疲れ様ー、あと五人だね、次はどんな悪を狙おうか?」


 私の背中が自然と冷える。


 あの大騒動をたったそれだけの言葉で終了させてしまった彼が、私には理解出来ないから。


 引き摺って歩けと言う訳では無いけれど、本当に、何事も無かったかのように通り過ぎようとしている彼が、私は確かに怖かったのだ。


 これは私がおかしいのか。あぁそうだ、おかしいのは私だ。彼ではない。いつものことだ。おかしいのは私の方だ。だから気にするな。


 忙しなく脳内で言葉が飛び交い、笑う私は結目さんを見つめていた。


 曖昧な、当たり障りのない答えを吐いておく。


「どんな悪……が、いるのでしょうね」


「さてねー、でもまぁ今回は、フォーンの王様の肩透かしを帳消しにしてくれるぐらい屑だったから、こんな奴を次も是非見つけたいよね」


 結目さんは王様をはりつけにした十字架を軽く叩く。彼は楽しそうに笑っているが、その声は退屈そうだ。


 私は彼から視線を逸らして、口元だけ笑ってしまう。


 すると直ぐに髪の一部を風に引かれたので、視線は自然と動いてしまった。


 結目さんと目が合う。


 彼の暗い茶色の瞳は何を考えているのか分からなくて、無意識に私は聞いてしまうのだ。


「また、壊してしまうでしょうか」


 呟きのような、小さな声だと自分でも気づいた。腕に抱いたりず君とらず君は私を見上げて、ひぃちゃんは尾を私の首に巻いてくれる。


 それが安心出来る材料で、私は結目さんに微笑み続けた。


 たった一人を選ぶだけで、私は何人ものウトゥックさんを死なせる道を進んでしまった。歴史を壊した。伝統を壊した。間違った考えだと思う相手を排除してしまった。そんな権利持ち合わせていないのに。


 分かっていた筈だ。奴隷にされていた人達の鎖を切るということは、彼らに自由意思を与えることだと。その力が結束すれば、爆発すれば、今日のような結末になることは。


 ――お前だ


 最初に私の目の前で死んだウトゥックさんを思い出す。


 彼は私を悪だと言った。それは正しかった。それを無視して私達が思う悪を探して選ばせてしまうなんて、傲慢もいい所だ。


 結局私は、私以外の賛成数の多い悪が欲しかったのだ。あのシュスから見つけると決めていたから。それを変更したくなかったから。


 頭が痛くなって、笑うことが面倒くさくなってくる。


 そう思うのに、髪を少しだけ強く引かれるから。


 私は笑い続けてしまうのだ。


「壊していいじゃん」


 当たり前だと言わんばかりの声がする。


 何か問題があるのかと言う雰囲気が伝わってくる。


 私は結目さんを見つめて、目の前の彼は笑っていた。


「壊さないなんて不可能だよ。だって誰か一人を攫って殺すんだから。そこに良心なんていらない。自分が生きることだけを考えていればいい」


 笑顔の結目さんは言いきって「凩ちゃんさぁ」と、呆れたような声で呼ばれてしまった。


「君は優し過ぎる。もっと非道になるべきだね。もしくは何も考えないようにするか」


 伸びてきた手が髪に差し込まれて、顔が上を向く。


 風で浮いていた髪が耳元で音を立てて落ち、視界には近づいた結目さんだけが映っていた。


 口角が引き攣って、笑ってしまう。らず君とりず君を抱きすくめて。


「君は空気だ。だから俺の言う通りにしていたらいい。何も出来ない凩ちゃん。俺はそんな君を許して使っていくからさ」


 まるで、執着のない言い方だ。


 そんな感想を抱いてしまう。


 結目さんは玩具を見つけたような笑顔で、それでも全てどうでもよさそうな、チグハグな雰囲気を纏い続けていた。


 あぁ、私はきっと、彼を理解出来ないまま進んでいくんだろう。


 理解出来なくてもいい。知ることは出来るだろ。とは思うが、それすら出来なかったらいよいよどうしようか。


 彼の掌の上で、何も感じることなく踊り続けることが出来たならば、それはどれだけ楽だっただろう。


 私は馬鹿な発言をした自分を嫌悪して、返事はせず、ただただ笑い続けてしまった。


 その時、私の二の腕が引かれて目と口を隠される。


 香るのは柔らかな芳香。その温かさは先程まで私が運んでいたものだと直ぐに分かり、心臓が跳ねてしまった。


「笑うのを止めなさい、道化じゃあるまいし」


 凛とした声に注意されて、私は肩を竦めてしまう。


 ひぃちゃんは楠さんの肩へと移動したようで、それでも尾の先は私の頬を撫でていてくれた。


 結目さんの、感情が削げ落ちたような声がする。


「何? 凩ちゃんの視力と声取る気? 怖いねぇー急に」


「誰がそんなこと言ったのかしら」


 目を覆っていた楠さんの手が外れて、視界が開ける。肩と口を優しく抱かれた私は楠さんを見上げ、彼女は前だけを見つめていた。


 結目さんが口にしたようなことは考えていなかった。確かに彼女に触れられることは力を使われてしまう恐れがあるのだけれども、そんなことを心配しなかったのだ。


 そんな私の言葉を代弁してくれたのは、りず君だ。


「紫翠はんなことしねぇぞ」


「針鼠がなんか言ってる」


「名前覚えろや帳!!」


「名前呼ぶなっつってんじゃん」


 結目さんが笑顔でりず君を注意し、腕の中で萎縮してしまった私のパートナー。


 私は苦笑し、触れていた楠さんの手は無くなった。振り向き見上げた楠さんは、やっぱり綺麗な無表情だ。


「取られると思いなさいよ」


 なんて言われたが、そう思えないのが私であるので許していただきたい。


「大丈夫だと、思うんです」


 苦笑しながら伝えると、楠さんに額を弾かれてしまった。


 ……地味に痛いやつだこれ。


 額を押さえてはみるが、残念ながら地味な痛みは引かないわけだ。


「馬鹿な子」


 頭の上から降ってきた言葉に肩を竦める。


 すみません。


「あーあー凩ちゃん虐めんなよー」


「貴方にだけは言われたくないわね」


「ぁの、別に、虐められてないですよ」


「え、自覚無いとかウケる」


「貴方、もう少し心狭めなさい」


「どういうことでしょう……」


「次は、どうする?」


 不意に会話に入ってきたのは細流さん。彼は首を傾げて、命令を待つ番犬のように見えた。


 失礼か、黙れ自分。


 結目さんは「割り込んでくるセンス」と笑い、楠さんは細流さんに向き直っていた。


「目指すシュスを決めるつもりだけど、何処か検討はある?」


 楠さんの問いに、首を傾げ続けた細流さん。


 何となく幼く見えてしまう仕草に笑ってしまい、聞いた楠さんはため息をついていた。細流さんは「無いな」と虚空を見上げている。


 瞬間、私の襟口から鍵が出てきて――青い兎さんが映し出された。


「いぃぃぃやっほぉ!! 氷雨ちゃん!!!」


 谷底に響き渡るような大音量。それがアミーさんの第一声。


 私は笑いながらその声の直撃を受け、肩にはひぃちゃんが戻ってきてくれた。りず君とらず君は小さな前足で耳を塞いでいる。可愛い。


 私は目を瞬かせて「アミーさん」と、私の担当兵さんを呼んだ。


「お疲れお疲れ!! いやぁ生贄確保ありがとう!! もう僕超嬉しくて飲んでた紅茶をぶちまけちゃったよ本当、火傷しちゃった!!」


「ぁ、ぇと、大丈夫ですか?」


 火傷とは大変だ。直ぐに冷やさねばいけないが、上半身しか見えないアミーさんは見える範囲はご無事に見える。いや、もしかして着替えたのかな。


「だぁいじょうぶ!! 心配ありがとう!!」


「それは、よかった」


 元気なアミーさんに和みつつ、私は首を傾げてしまう。


 彼は一体どうしたのやら。生贄に歓喜しているのは分かるが、普段は帰りの挨拶以外、自分から出てこられる方ではない。


 私が結目さんと行動を共にし始めた時も「やっだ僕ってお邪魔虫」と音符でもつきそうな口調で、挨拶すらしなくなった人だもの。


 私が声をかけてやっと反応を示してくださるのだが、今はそれが崩れるほどにテンション上がっているんでしょう。落ち着いてくださいアミーさん。


「え、凩ちゃんの担当兵兎じゃん」


 そう言いながら、結目さんは私の頭に肘を置いてきた。縮むので止めていただきたいが言うことは出来ず、私は若干首を曲げながら苦笑する。


 私がアミーさんを紹介しようとした所で、それを遮ったのは彼本人だった。


「やっほー!! 君は結目帳君だね!? オリアスから聞いてるよ!! 僕達占星術が趣味で仲良しでさ!! 延々と君のことを語られたよ耳だこもの!」


「うるさいでーす」


「あ!! 君は楠紫翠ちゃんだね!! ふぅ超美人!! ヴァラクがご執心になっちゃうのも頷けるなぁ、僕とも仲良くしてねデートしよう!!」


「躾がなってない兎ね、出直しなさい」


「そっちの大きい子はエリゴスと拳を交えた細流梵君か!! 初対面で殴りかかられたから、エリゴスは君を超お気に入りにしてたよやりおるなぁ!!」


「おぉ、そうか、で、貴方は、誰だ?」


「あぁそうだね! 僕はアミー! 愛しき僕の駒たる凩氷雨ちゃんの担当兵士さ!! 紫翠ちゃんをナンパしちゃったけど、今一番愛してるのは氷雨ちゃんだから安心してね!!」


 アミーさんの破天荒ぶりを見ながら微笑み続けてしまう。


 愛してくれてなくていいですよ。所詮消耗品ですので。


 私が返答を考えていると、代わりにりず君が答えてくれた。


「アミーうるせぇ、出てきたんなら今の祭壇の状況とか教えろよ」


「へぇい口が悪いねりず君!! 今の祭壇はねー……」


 顔を斜め下に向けて耳を揺らすアミーさん。私は彼の青を見つめ、頭上からかかっている結目さんの体重に若干首を痛めていた。


「今最も多く生贄を集めている祭壇は三人だね!! 昨日まで四人のとこがあったんだけどルアス軍に壊されちゃったんだよねぇ、くやしい!! 総祭壇数はみんなの努力のおかげで五十はキープされてるよ!! ルアス軍の子達も頑張ってるけど、負けちゃぁいない!!」


「成程……ありがとうございます」


 両腕をふんだんに使って話をしてくれるアミーさん。


 昨日までで四人も捕まえていた方がいるとは驚きである。これは決着が早いのではないかと微かな期待をしてしまうが、それは怠惰な油断になる、やめよう。


「またそんな顔しちゃって」


 考えていると、アミーさんが私の頭を撫でるような仕草をした。


 そんな顔とはどんな顔でしょう。笑顔だった筈なんですが。


 分からないから曖昧に首を傾げていると、アミーさんは笑い声をあげるんだ。


「よく頑張ったね、氷雨ちゃん。残念ながらまだあと五人生贄を捕まえて欲しいわけだけれども、それでも君はよくやった。満点花まる!! この調子で行くんだよ!! 途中でぶっ壊れても突き進め!!」


 そう溌剌はつらつと言い放ったアミーさん。


 壊れても進むのか、頑張ろう。


 私は笑って頷いた。


 その時、視界に入るのは祀ったウトゥックさん。


 そう、そうだ、生贄にしたってことは。


「アミーさん、生贄の方が亡くなった場合はどうなってしまいますか?」


「お、それは半殺しの状態で祀り終わる前に死んじゃったってことか、他の生贄を集めている間に死んじゃったらってことか、どっちかな!?」


「あーっと…………」


 苦笑いしながら考える。


 私的には後者のつもりで聞いたがこの際だ、両方聞いて安心したい。


「両方、で」


「了解了解! 前者の場合は生贄認定されないから、残念だけどぽいしちゃって! 死体はアルフヘイムに返しとこう!! 後者の場合は大丈夫! 祭壇に祀られた時点でそいつの体の成長は停止するようになってるからね! どんな大病患ってても死にゃしない!! この説明で、不安はないかな〜?」


「……はい、大丈夫です、ありがとうございます」


 笑って、会釈する。


 死んでたらぽい。


 その表現が薄ら寒いなんて言えなかった。聞いたのは私で、アミーさんはそれに答えてくれただけだから。忘れろ。死んだらぽい。忘れて。アルフヘイムに。忘れろ。


 何回も浮いて出てくる不安な単語に「忘れろ」と暗示を被せていく。笑いながら、一人脳内で。


「不安が解消されてよかった!! じゃぁねん愛しの我が駒よ!!」


 大きく手を振ったアミーさんは、こちらの挨拶も聞かないまま通信を切ってしまった。


 私とりず君は「さよならー」と遅れながら手を振り返し、楠さんに言われてしまう。


「騒々しいわね」


 返す言葉もございません。


 私は「すみません」と苦笑し、頭の上からは重さがなくなった。


 楠さんの目は、直ぐに謝る私をとがめるような色をしていた。それから逃れるように私は結目さんへと視線を向ける。


「でも想われてるじゃん? 俺達の兵は連絡なんかくれないわけだし」


「そう、だな」


 結目さんと細流さんは自分の鍵を服の襟から出していた。


 細流さんの兵士さんは「エリゴス」さん、楠さんは「ヴァラク」さんだと勝手に知った今日この頃だ。


 私達はその後祭壇から離れ、谷を後にし、ウトゥックの湿原のその先へと飛行した。


 結目さんが鍵を使ってオリアスさんと話していたが、少し離れた所で話されていたので兵士さんを見ることは叶わなかった。


 それ以上に危機的だったのは私の両腕だ。


「絶対これおかしいわよ」


「氷雨、大丈夫、か?」


「……はぃ」


 右腕に楠さん、左腕に細流さんをぶら下げて飛行するという難行。


 細流さんは「走る」と言ってくださったが、「それ遅いじゃん」と言って拒否したのは結目さんだ。


 しかしながら、結目さんが細流さんを風に乗せるかと言われれば否である。彼は「やだよ疲れた」と先頭を飛行するわけだ。


 私の腕力を補助してくれたらず君と、細流さんも私の体を強化してくれたので二人をぶら下げて飛ぶことは出来た。だが、そうなるとひぃちゃんがしんどいわけですよ。


 だから、らず君をひぃちゃんの背中に乗せて、ひぃちゃんと私に補助を使ってくれている。だがそうすると今度はらず君がしんどくなってしまうのです。


 硝子の彼は基本、私だけを補助してくれるから。お姉さんを通しての私はきついものがある。


 そして、それにプラスするように細流さんの倍増化が、私の体に響いていた。


 至る所が痛い。なんだこれ。


 頬を引き攣らせながら笑っていると、細流さんが見上げてきた。


「俺の、力は、体に、負荷が、かかる、だろ」


「……ですね、そこそこに」


「だから、離してくれて、いいぞ。自分を、強化して、遅れ、ないよう、走る」


 今体に負荷がかかるとご自分で言ったくせに。


 私は苦笑してしまい、細流さんと楠さんの手を握り直した。


「それでは、細流さんの体に負荷がかかってしまうではないですか」


 ひぃちゃんが大きく羽ばたいて、一人進んでいく結目さんに追いついてくれる。私はその背中を見ながら、笑っていた。


「大丈夫です。私は意外と、丈夫な体をしておりますので」


 カウリオさんに殴られようと、グウレイグさんに湖に引きずり込まれようと、ウトゥックさんに切りかかられようと、大きなハンマーで弾かれようとも生きていた体だ。


 結構丈夫です。本当に。だから大丈夫。


 答えたら、細流さんは「そうか」と呟いて顔を前に向けてしまった。


 ありがとうございます。どうか気にしないでくださいね。


「フォーンの王様さ、」


 ふと結目さんが発言し、フォーンと言う単語から私に向かったものだと判断する。


 顔を上げると、にこやかな結目さんの表情が視界に入ってきた。


「捕まえても死ななかったんだね」


 か細い息をしていた、王たる王を思い出す。


 私は微笑んで「そうですね」と、返しておいた。


 ――その日、結果的に次のシュスに辿り着くことはなかった為、強制送還させられ、私はまたベッドへと放り出された。


 慣れ親しんだベッドの上で天井を見つめ、疲れ気味なひぃちゃんとらず君の頭を撫でる。朝日が昇るのが、少しだけ早くなった気がした。


「お疲れ氷雨、らず、ひぃも」


「お疲れ様、りず君、ひぃちゃん、らず君」


「お疲れ様です、氷雨さん、りず、らず」


 お互いにお互いを労って笑い合う。らず君は一生懸命私達の頬に擦り寄ってくれて、余計に笑い声が零れてしまった。


 笑いながらも、ふと思い出すのはボロボロに壊れてしまったウトゥック・シュス・ノイン。


 あぁ、嫌だ、気持ち悪くなる。しんどくなる。


 忘れたいから目を瞑り、私はベッドの上で笑い続けた。


 笑えば嫌なことも感じる暇は無くなる。笑顔は正義だ。


 ふざけるな弱虫。


 やっと一人捕まえた。大丈夫、あと五人の辛抱だ。


 駄目だ。一人でだって心が痛いのに。


 あと五人で私の命が救われる。楠さん達も一緒に生きることが出来る。


 ルアス軍の人達はどうする。


 捕まえろ、心を殺せ、笑っていよう。


「あぁ、しんど……」


 本音が零れて目を開ける。私の体の上にいたりず君達は顔を覗き込んできて、私は笑顔でい続けた。


 しんどいと零した自分に嫌気がさす。


「……ごめん、なんでもない、朝ごはんは何がいいかなー」


 間延びした声を出しながら起き上がり、私はらず君達を抱き締めた。ひぃちゃんの尾が私の背中を撫でて、りず君とらず君が笑ってくれる。


「しんどいな、そうだな、しんどいな、氷雨」


「言っていいんです、大丈夫ですから。朝ご飯、作りに行きましょう」


「うん、うん、そうしよう、そうする、大丈夫、しんどくない、頑張る。行こう、おはよう」


 私は笑って、ベッドから足を下ろした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る