気付いたら異世界だったので昔の記憶使ってスローライフ満喫します!

夢咲 零於

転生

 気付いたら魔法陣の中に私はいた。


 私は普通のヲタク女子高生で、友達と「LINO」で楽しくお喋りしながら学校への道を歩いてて、学校の前の曲がり角を曲がったらそこはギリシャ風の神殿で、そこには何故か神がいた。


「おはようございます、村田 那美さん。私は生と死を司る神、テミスと言います。」

 そう言ったのは美しく波打つプラチナブロンドの髪が寝起きの目に眩しい空の様な蒼い目の女神。


「おはよう那美。私はリータ。あなたには今まで住んでた場所とは違う場所で、人助けをして頂きたい。」

 と、隣にいるテミス様と同じプラチナブロンドの髪と蒼い目なのに、少し無精な感じがするくせにやはり輝いている女神が言った。

「あ、因みに私は非常の力を司る神──」


「那美様、おはようございます。私は運命の神、アレンダ。リータが話したように、異世界の人助けをして貰います。その為に突然ですが、貴方を呼び出させていただきました。現実世界では……申し訳ないのですが、心肺停止の状態にさせて頂いています。死んではいないのでご安心を。」

 先程の女神達よりも圧倒的に威厳のある、光り輝く女神様が、ストレートなプラチナブロンドの髪を靡かせて半ばリータのセリフに被せて言った。

 この女神様は光が強すぎて顔が見えない。


「異世界行って魔王を倒せばいいって事?」

 そういう話はとことん読んでいた私は3人の女神様達に聞いた。


 早く家に帰って録り溜めたアニメを柔らかなふかふかの布団の中から見まくりたかった私の予想はこうだ。

 異世界に行き、女神様達から授かった超強い魔法とか武器とかで魔王の配下をちゃちゃっと退治する。そこの道中で出会った仲間を引き連れて魔王を探し出し、魔王を倒す。

 こんな感じだろう。


「残念!ハズレだよ」

 女神リータが面白そうに言った。

 何がそんなに面白いんだか、テミスも少し笑っているように見える。


「冒険をしたいって気持ちは分からないでもないけどさ、あなたには異世界で何でも屋をやって欲しいの。」


「えっ……はぁ……」

 なかなか理解できない。何でも屋をやるって事と、女神リータがこんなにも馴れ馴れしいことが今の私には飲み込みにくい。


「まぁ、他の人達より強めの能力と、良さげな家柄の子として産まれることと更に、女神の加護は付けてあげるから」


「さっきから那美様に馴れ馴れしくし過ぎです。少し混乱しているでしょう。リータ、貴方は少し女神の威厳ってものを持ちなさい。」

 女神アレンダは神らしく振舞わないリータが気に入らないらしく、顔は見えないのだが、その隣にいる女神テミスの表情から察するに、結構怒っているらしかった。


「申し訳ありません。アレンダ様。……しかし、私は女神になりたくてなった訳ではありません。ですので、女神としてのモラルだとか、そのような事は私には押し付けないで頂きたい。」

 リータ様も女神アレンダ様の声の怒りに負けない位怒っていた。アレンダ様もそうだが、リータ様も怒ったため、場の空気は氷点下。暖かく包み込んでいた2人の光は冷たく、鋭くお互いを刺していた。今ある私を護る光は女神テミス様の光のみとなってしまった。


「それでは、那美様に能力を与えてから神ではなくします。他に神は山ほどいるのでね……そうしたら、リータ。お前の居場所は神界においてどこにもないと思え。」

 声の怒り、その圧が四方に放たれた。神ではない私はその圧に押し潰されて死ぬかと思った。が、その後、私は死んでいるのと同じようなものなのだと気付いた。


「ほら、今すぐ能力を与えなさい。」

 すると、リータの先程まで私に馴れ馴れしくしていたリータ様の雰囲気が変わった。


 一瞬の静寂


「はい。」

「我、非常の力を司る女神なり。我、女神リータ・アガスト・ブラナーの名の元に那美 村田に非常の力を与える。」

 瞬間、女神リータ様の光が、光の強さはそのままに、二つに分かれた。その片方が、私の全身の肌から溶けて内側に入っていく。

 身体の芯で全ての光の暖かさが固まると、身体の中でそれが四散した。


 一瞬意識が飛んだ。


 目を覚ますと、私の中の何かも覚醒したように身体中がじんわりと暖かい気がした。


「私に何の力が目覚めたんでしょう?」

 そう、肝心なのはそれだ。

 私は何の力が使えるようになったのか分からないのだ。


「それは与えた女神でも分からないんだよ。『ステータス』って言うとなんの力が使えるか分かるから、確認してみな。」

「そうそう、『ステータス・オープン』で、他の人からも見えるように出来るよ。」


「ステータス・オープン」

 ──ブーーーン……

 半透明の水色のパネルが目の前に展開した。

 手を伸ばしても捕まえられない。

 ────えっ…


「……あの……女神様?」


「なんでしょう?」

 少し口調が丁寧になった女神リータ様が反応した。

 口調が丁寧になっている!?

 いや、それどころじゃないんだよ。


「なんで私の名前の欄に、『ナミ・リジュー』って書いて……?」


「あぁ、貴方がこれから転生する世界では村田那美様の名前ですと不自然なので、これからはその名前を使ってください。」

 嘘だ、今までの私の名前。16年以上付き合ってきた愛着ある名前が使えないだなんて……って言うのは流石に誇張したけれど、別人になるのは少し抵抗があった。


「抵抗があっても、その名前を使ってください。まぁ、もう一人転生されてきたら村田那美様の名前を使えますが……」


「──そうですか……わかりました。」

 困惑したけれど、仕方ない。

 ステータスが神がかっていたから許すとしよう。


「見た目は変えないから安心していい──」


「って……え?」

 リータ様の言葉を再び遮ったのはまたも女神アレンダ様だった。


「どうしたんですか?」

 リータ様は何か変な事を喋っていない筈とでも言うかのような堂々とした顔でアレンダ様を見た。


「いや、どうしたも何も、貴方って姓、『ブラナー』だったんですか!?」

 本当に驚いているようで、声が若干高くなっている。


「ブラナーってなんでそんなに姓に……?」

 テミス様はこの事態を理解していないようで、私と同じような不思議そうな顔をしている。


「私もブラナーですよ?リータと姉妹なので──」

 テミス様の一言にアレンダ様は酷く慌てたようで、テミス様の言葉も遮った。


「分からないでその名を!?嘘でしょう。……この話は長くなります。先ずは村田那美様を転生させてからにしましょう。」


 そして、どんな世界のどこに行くかも知らされないまま、私の意識は消えた。


 消える直前、真っ暗闇から女神テミス様の優しい声が私の意識に直接囁いた。


「何か困った事があったらお祈りして、今日会った3人の神の誰かを呼びなさい。いつでも答えてあげるから──」


 あぁ、私は今頃病院にいるのか……親とか、友達とか……心配してくれるかな……


 そして私は真っ暗闇へと静かに落ちていった。

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