荒天(第89回 使用お題「雨と波」「想いの残滓を飲み込んで」)

 せっかくの旅行なのに、見事なまでの雨だった。

 この時期にこんなに降るのも珍しいんですが…と、宿の人が気の毒がってくれたけれど、こればっかりは誰のせいでもない。

 おまけに季節外れの寒さも重なって、とても観光する気にもなれず、チェックインの時間になるなり転がり込んだ宿で、ぼーっと外を眺める。

 窓の外、小さいベランダにできた水たまりに雨粒が次々と落ちて、小さな波がせわしなく出来ては消える。その様子を、ずっと見つめていた。

 室内を見てしまったら、二人で泊まるはずだったところに一人でいるのに気付かずにいられない。だから、外を見ているしかなかった。

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