武士の情け(第55回 使用お題「悪い往生際」)
その犯人は往生際が悪かった。
証拠の包丁にはべったりと犯人の指紋がついていて、刃についた血痕のDNAは被害者のものと一致している。通報を受けて駆けつけた警官が、包丁と被害者の傍らで、返り血を拭いもせず呆然としている犯人を捕獲してもいる。自宅のパソコンには綿密な殺害計画書のファイルが存在し、そのタイムスタンプは犯行数時間前であった。
これだけ完全に証拠が揃っているのに、犯人は一切認めなかった。捜査官との雑談には応じても、話題が被害者か事件の周辺に移ってくるとぴたりと口を閉ざしてしまう。
勾留期限が迫ってきた頃、突然犯人はべらべらと一切を自供した。気持ち悪いくらい素直に喋るようになった理由を捜査官達が尋ねたが、そのたびに蒼ざめて唇を震わせる。訳を察した捜査官達は「良心の呵責に耐えかねたからだ」と供述書には記載し、犯人もそれに同意した。
いくら殺人犯でも、公的文書に「化けて出た被害者に怒られて自供しました」と記録されるのは可哀想だというものだ。
こうしたケースは存外に多いので、捜査官達も慣れたものである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます