バイバイ(第72回 使用お題「主人公を「キミ」と二人称にする」「出ていけ」)

 出ていけ、とキミが言う。

 自分のほうが兄で、オマエが受けてるもろもろは自分が受けるべきものなのだから譲れ、と言った。

 ボクはぬるく笑う。

 兄? ああ、確かにね、最初に「出来た」のはキミだよね。

 だけど、今はそんな大きな口叩ける立場じゃないんじゃない?

 誰のおかげで生きてられるのか、キミは分かってるのかな。

 だいたい、最初の生存競争に負けたのはキミだよ。ボクに吸収されたくなかったんなら、ちゃんと抵抗すればよかったんだ。

 ああ、やっと黙ったね。文句しか言わない、ボクの臓器にDNAが残ってるだけの、双子のお兄さん。

 ボクが一人で生まれてしまったからって、キミがひねくれたことしか言わないのもずっと我慢してきた。けど、ボクだって神様じゃない。ずっとずっとずーーーーーーーーーっとネガな話ばかり聞かされて、おかしくならないわけがない。

 ああ、時間がきたね。

 次に目が覚める時には、もうキミの言葉にうんざりしなくていいんだね。

 バイバイ。ボクの中で唯一違うDNAを持ってる、ボクの盲腸。ボクに吸収されても生き残った、お兄さん。

 腹痛で病院に駆け込んで、盲腸だって分かった時には、そりゃあもう嬉しかったよ。やっとお兄さんに「出ていって」もらえるんだ、って。

 そうそう、お兄さんのDNAがボクの盲腸にだけ残ってるのはお医者さんも知ってるから、手術後は研究資料として保存するんだって。

 やっと人の役に立つ仕事ができるんだから、よかったね。バイバイ。元気でね。

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