伯母のコレクション(第76回 使用お題「絵葉書」)
嫁姑バトルで危うく捨てられそうになったから、これを大事にしてくれる人にあずかってほしい。
伯母はそう言って私にコレクションを託した。
確かに私も絵葉書を集めてるけど、集めてるのは美術館のポストカードで、伯母の集めているものとは全然方向が違う。
そう抵抗したのだが、印刷されてるものが違うだけで絵葉書には変わりないでしょ、と、うちにねじこまれてしまった。
伯母のコレクションは、古いヨーロッパの写真の絵葉書だった。セピアに褪色した建物や景色は、私にはどこのものか分からないけれど、見ていて気持ちがなごんで、伯母が大切にするのも分かる気がする。
綺麗にポストカードホルダーに入れられた、それらの絵葉書をぼおっと眺めていると、不意にその表面に影が走った。疲れ目なせいかと思ったが、なんとなくそうではない気がする。じっと息を詰めて、その並木道の絵葉書を凝視する。
やっぱり気のせいではなかった。
一番手前に写る樹の影から、写真と変わらない色のウサギが飛び出し、ちらりと私のほうを伺ってから、かなりの勢いで道の対岸へと走っていった。
思わず息を詰める。
今度は奥のほうの樹の枝が、ざわざわと音がしそうなほどに揺れ、同じくセピアの小鳥の群れが現われる。その群れがどんどん近づいてきて、思わず身体を引いてしまう。写真の中の鳥が外に飛んでくるわけがなく、葉書の上面から次々と消えていくだけだったけれど、本当に出てきそうなくらいの迫力だった。
私は即座にポストカードホルダーを閉じて、伯母からの預かり物を全部押し入れの奥に入れた。すごいものだとは思うけど、こんなに普通でないコレクションを目につくところに置いておける度胸はない。
こうしておけば、預かり物だから大事にしまっておいたと言い訳できる。
伯母のところのお嫁さんに、ちょっと同情したくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます