第2話『死神と私と。帳尻合わせな、優しい凶器』
細波が無骨な防波堤に打ちつけられて、ちゃぷんと音を立てる。月は相変わらず飽きっぽい表情で、私の遥か空を照らしていた。
「…………いきなり物騒なことを言うね、キミは」
「……そんな凶器持ってる貴女が言うんですか…?」
「おっと、仕舞い忘れてたね」
わざと見せつけたのだろうか。おどけた様子で彼女は、その黒々とした大鎌を薄闇に溶け込ませるようにして消し去った。
…………ほっぺたをつねってみる。
……夢ではない。
いや、ここが夢だとしても私の願いは変わらない。
……命ある限り終わりが来るのだとしたら。
そんな残酷な結末に抗う方法なんて、たった一つしかないじゃないか。
だから……だから、私は私を殺したかったのだ。
「それで……願いを訊いてくれるんですよね?はやく殺してくれませんか?」
「うーん……殺すのはやぶさかではないんだけどねー……」
「死神は、生きたがってる人間しか殺せないんだ」
「…………はい?」
「いやだから……つまりさ」
屈託のない笑顔で彼女は言う。
「……キミは生きなきゃいけないってわけだよ」
ひどく重たい言葉が脳を殴って、濃密な虚無の匂いに私は嘔吐した。
その場にうずくまり、だだっ広いだけの夜に嗚咽を投げ続けた。
その様子を死神は慰めるでもなく、ただ同じ目線にしゃがんで、足元に広がる吐瀉物も気にせずに、泣き止むのを待ってくれていた。
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