我々は今日、この日を人類の独立記念日とする!

 あの迷い猫は、無事逃げられたのかな、と最後にデネブはぽつりとこぼした。


 栄華を誇った王都は、そうして無残なかたちで歴史の幕を閉じ、見る影もない廃墟は魔物たちの住処となったのだという。

 あまりに重くて聞いてていたたまれなかった。俺もデネブも少しの間、黙り込んだ。


 さっきまで子供みたいにひとりでぺらぺらとよくしゃべっていたソアラは、いつの間にやらおとなしくなっていた。

 歩きながら器用に船をこいでいる。本当に眠くなったらしい。だから女児かよ。

 おーい、寝るなー。ぺちぺち頬を叩いたがあまり聞こえてないっぽい。


「そういえば、なんで神の野郎は、街が滅ぼされることになるような啓示を長女と次女にしたんだ? それがなければ魔王に攻め落とされることもなかったのに」

「おそらく王女の虚言です」


 虚言?とオウム返しの俺にデネブはこくとうなずく。


「なんらかの理由で王都を、そして王家をつぶしたかったのかもしれない、と噂されています」

「なんでまた? 謀略をめぐらせてライバルの妹たちを排除してきた姉のふたりが、王の最大の財産、リオの街や国そのものを壊滅させるんだ」

「わかりません。人々の間では、長女たちは魔王の策略に乗せられてしまったとの見かたが有力のようです」


 リオは、魔王にしてみれば近場にありながら攻略できずにいた目の上のこぶ。ゴリラ・レンガ姉妹はその拠点を落とす際の最大の功労者ってわけだ。魔王の城かどっかで特別待遇を受けていたら胸くそだな。

 結局、魔王討伐のとっかかりが見つかるわけでもなく、なんとも言いがたい気分に陥っただけの気がする。


 あー、やっぱ米軍でもこねーかなー。あの三角形のステルスのやつが飛来して、魔王の城のほうにわけわかんないスピードで向かってくの。そしたらもう俺、ハイテンションでUSA!USA!て叫ぶね。手にマシンガンあったら、空に向けてバカみたいに撃ちまくって雄叫びあげて。で、山の向こうのほうでとりあえずなんかきのこ雲があがるの。魔王、城ごと爆死。米軍の司令官的なおっさんが壇上で「我々は今日、この日を人類の独立記念日とするッ!」とかなんとか勝手に異世界代表して宣言。ビシッと敬礼して、勢いだけで全部乗りきる。USA!USA!

 あー、こねーかなー、米軍。自衛隊でもいいや。


 ……だからこんな愚にもつかないことばっかぼやいてる奴に勇者の使命なんて荷が重すぎんだろって――くそっ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る