【大悲報】俺、死んでしまう

 俺は短い廊下を駆け、妹の部屋をノックした。


「おい、大変だっ。お袋と親父がっ」


 俺は激しくドアを叩いてなかへ呼びかけた。返事はない。何度か繰り返したが同じだった。

 外出している可能性はまずない。あいつも引きこもりだ。いつも部屋にいる。

 俺は迷った。許可なく開けるとあいつはうるさい。デブスのくせに一人前に女のつもりでいやがる。おまえの着替えなんか金でももらわないと見る気にならないから。

 ともかく今は緊急事態だ。入るぞ、と断って俺はドアをあけた。


 お袋に続いて親父まで倒れている異常事態。知らせに踏み入った妹の部屋はいやに薄暗かった。

 電灯がついておらずカーテンも締めきってある。こいつはこの時間、起きてるはずなんだが。


 煌々と光るモニターへ目が吸い寄せられる。

 弾幕――おびただしい量の文字が洪水ようにひっきりなしに流れていた。妹がよくやっている生放送だろうか。

 見るともなしに目に入ったそれは興奮の渦に湧いていた。


『逝ったああああ』『マジかよこれヤバくね?』『運営仕事しろ』『もしもしポリスの人?』『今死んだばかりだけど聞きたいことある?』『成仏して』


 どくり。一度、胸が強めに跳ねた。

 嫌な結論が食い気味に脳裏へ浮上する。

 いや、まさか。そんなこと。


 部屋の暗さに目が慣れ、モニターの放つ光になにかが照らされていることに気づいた。

 それはまるで宙に浮いているように見えた。

 まさか――まさか、まさか、まさかまさかまさか。


 震える手で電灯のスイッチを探った。乾いた音と同時に明かりがつ――


「うわああああああああっ!!」


 俺は喉の奥底から声を張りあげた。


 机上の描きかけのBL原画。その上に散らばるいくつかの錠剤。横倒しになった椅子。苦悶の表情を顔面に貼りつけてぶら下がる、妹の太い体。


 人生で初めて俺は卒倒した。

 それは最初にして、最後でもあった。

 ショックのあまり心臓マヒを起こした俺に、もはや、この世でぶっ倒れる機会などありはしないのだから。

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