タカ、いやトンビか、そいつに俺は、このハゲタカ野郎、と叫ぶ

「なあ、デネブ。魔王倒して現実世界に帰ったら会わね? 駅んとこのどっか、ソレイユ辺りで飯でも食おうぜ」

「ゆ、勇者様、積極的すぎますっ。私、前にも話したとおり、男の人とつきあったことないんです。だからそういうのはまだ困ります。あとっ、あとっ、家も今は中野なんです。最寄駅も路線も秘密ですっ」


 デネブは顔を赤らめ、あたふたと手を回した。早足になり、俺を視界から追い出す。

 いかん。調子に乗ってがっつきすぎたか。俺は歩幅を広げ、遠慮気味にデネブのななめ後ろについた。

 白とピンクに彩られた魔法少女は、ううう、と口を結びうつむき加減だ。下に伸ばしきった両手で、ハートのステッキをぎゅっと握っている。やべ、警戒させちゃったかな。

 いやいや、さっきの「まだ」って言いかたは脈ありとみて間違いない。というかアニメなら完全にフラグ立ってる。全っ然いける。はず。

 にしてもデネブたん、反応がいかにも処女っぽくてくっそかわいいなあ。ほっぺた赤らめてあせあせしてるところとか悶死不可避。三次元も捨てたもんじゃないわ。


「勇者様、にやにやしないでくださいっ。モンスター、来ますよ」


 むくれ顔のデネブが、草間に点在する岩の上空を指さした。タカ、いやトンビだっけか。

 その鳥影がまっすぐ向かってくる。接近するにつれて、それが結構大型であることに気づいた。頭から尾羽根だけでも人間大、伸ばした羽は人の二、三人ぶんはある。


 【レッドブラックカイト/レベル:十】


 名前に反して赤くも黒くもない地味な茶色だった。

 レベル十。デネブの八よりも上だ。

 俺は乳白色の刀身が映える【魔よけの剣】を抜き身構える。こいつの特殊効果でパーティー内のレベルを上まわる強敵は寄りつかないはずなんだが、百パーってわけじゃないのか。


 レッドなんちゃらは俺めがけてまっすぐ突っ込んできた。

 反射的に盾で防ぐも、ぶち当たった衝撃で後方へすっ転ぶ。倒れざまに盾を奪われ宙へ持ち去られた。

 地べたに手をつき起き上がる。ぞわっと全身が粟だっていた。

 ものすごい力だった……。

 あのサイズといい、へたしたら盾どころか俺自身が連れてかれそうな勢いだ。巣で待つ雛の餌にでもされかねない。

 俺は怖じ気を振り払うように「返せ、このハゲタカ野郎っ」と空に向かって吠えた。ちなみにハゲてはなかった。


 鳥の奴は、ぽいと草のなかに盾を捨てた。

 くそう、街で身ぐるみはがされたのに続いてまたか。異世界で二度も皮の盾を取られた奴なんて俺ぐらいだぞ。


 道を外れて、草地に横たわる盾の回収に向かう俺に、デネブが叫んだ。


「離れてはいけませんっ、勇者様!」

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