ぷい◯ゅあー、がんばえー
店は酔っ払いで混雑して、声高で話さないと聞きとりにくいほどだった。
俺やデネブのようなタイプ――ゲームやアニメなんかで、視聴者ウケ前提に描かれそうな容姿――はあまりおらず、冒険者たちはだいたいガタイのいいむさ苦しい連中だった。
腕っぷしのよさそうな奴は基本、どこの世界でもやかましい。あちこちで笑い声やら自慢話やら乾杯のかけ声とガラスの音やら歌やらバカでかいくしゃみやらが発せられる。ラグビー部のパーティー会場にまぎれ込んだナードの気分だ。
こういう雰囲気はどうも慣れないんだよな、と言うと、私もです、とデネブは苦笑した。へー、旅慣れてるふうだから平気なのかと思ったら、意外と。まあ、冒険生活をしてる奴みんながバカ騒ぎをするわけじゃないか。
料理が来て、自分のぶんだけはどうにか支払った。
本当はいろんな礼を込めておごってやりたかったが、なにせ懐が厳しい。デネブに、気にしないでください、と慰められてよけい悲しくなった。これが世界を救う勇者とは不甲斐ない。
俺とデネブはひどい空きっ腹で、ある程度、胃袋が満たされるまで無心で食った。
そういえば、女の子と飯を食うのなんて初めてだ。かわいい子との食事なのに色気もなにもあったもんじゃないな。
含み笑いをしていると、デネブが、どうかされましたか、と聞いた。
「いや、俺たちがつがつ食ってんなって。にしてもおまえの格好すげえよな。魔法少女のコスプレにしか見えない」
「誰が魔法少女ですかっ。コスプレじゃなくてれっきとした装備品ですっ」
俺は「幼女がテレビの前で『ぷいきゅ◯ー、がんばえー』って振りまわしてそうなそのステッキもか」と指差す。
デネブは、先がハート型のカラフルなそれをかざしてみせ「回復魔法と攻撃魔法がランダムで出る優れものなんですよ」と胸を張った。いつ使うんだ、それ。
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