俺に使徒《てんし》が舞い降りた!

 雑貨屋で薬草や毒消し草などを仕入れ、行きつけの酒場でクエストの依頼票を眺めて選んでいるうち、夜のとばりが街に下りる。店のなかは流れ者や地元の男たちで騒がしくなりはじめた。俺たちもテーブルにつく。


 こないだのウエイトレスのお姉さんがオーダーをとりにきた。生きて帰ってきたのね、と笑うお姉さんに、俺はばつが悪そうに、どうも、とうなずいた。


 デネブは俺と違って注文を決めるのが早く、サフランライスとハーフチキンのローストとハムサラダとぶどう酒、と告げた。俺は、ちょっと待った、と止める。

「やっぱ食べすぎですか? でも今日ずっと食べてないから」と苦笑いするデネブに首を横に振った。


「おまえ、未成年だろ。酒はまずいだろ」


 デネブは意外そうに目をぱちぱちとさせ、ああ、そっか、と言った。


「アンティクトンの世界では、二十歳以上とかの明確な年齢制限はないんです」


 明らかな子供には出されませんけど、とにこりとつけ加えた。それでも俺は渋い顔を解かず、酒を取り消してもらって自分の注文を伝えた。


 お姉さんがカウンターに向かったあと、少し気まずくなった。

 固いこと言って機嫌を損ねてしまったかな。

 ちら見すると、デネブは「勇者様はとてもまじめなおかたなんですね」と丸い目をうっすら細めた。「怒ったりしてない?」と尋ねると、とんでもない、と首を振った。


「勇者様は私のご主人のようなかたです。勇者様のおっしゃるままに従います」


 澄まし顔でデネブは口もとをほころばせる。やっぱりええ子や。ほんまもんの天使やで。

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