勇者ってたいていの武器防具が装備できるじゃん?

 酒場で名前を訂正したあと、改めて装備品を整えに出かけた。

 手近の防具店に入る。ここもあいかわらずの薄暗さだ。


 買い出しとはいっても俺の手持ちはわずか。ほぼどれも手が出ない。従者に借りるのは気が引けるが、見栄を張っていられなかった。

 借金の相談にデネブは首を横に振った。それは拒否の意思表示ではなかった。


「そんな、水くさいです。私たちは同じパーティーじゃないですか。喜んでお出ししますよ」


 にこりとあっさり応じるデネブが女神に見えた。ほんまええ子や。


 俺は人の財布となると遠慮をしない男だ。鉄の鎧・盾・兜の三点セットをカウンターにどさっと置く。店の太ったオヤジが、お客さん、装備できるか確かめないの、と座ったままじとっと俺を見た。

 勇者だぞ。たいていの武器防具は装備できるに決まってんだろ。とっとと会計しろよデブ。

 内心で毒づいていると、試着して購入されたほうが、と少し困り気味にデネブも進言した。こんなものいちいち試さなくても装備できるわ。


 俺は鉄製の防具に固めた勇姿を披露した。いかにも勇者といういでたちだ。スマホがあったら二十枚ぐらい撮影してもらってる。

 歩けますか、とデネブに聞かれて「ば、馬鹿ゆーなよ、おめー」と俺はあわてた。狭い店内をさっそうと闊歩してみせた――つもりだった。

 ギリ歩けなくはなかったが、一歩一歩がクソ重い。バトルとかはちょっと……無理、かな。

 カウンターまで戻ると、オヤジが皮製の三点セットを並べて頬杖をついていた。ぐぬぬ。

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