勇者になんてなれないけど転生するほうがいい。裸のままで飛び出してあの馬車に乗ってこう。いやらしくて汚らしい聖剣むき出しで走ってると衛兵に捕ま

 ようやく俺はエリースの街の建物の輪郭がくっきりと見えるところまで戻ってこられた。

 街を出たのが何年も前のように感じられる。浮足だつ俺はデネブととめどなく話した。


 この子も神の啓示を受けたそうで、勇者を探し求める旅をしていたのだという。相手のステータスを見ることができるのは勇者だけでなく、勇者の使徒も同様らしい。

 まさかレベル一とは思わなかった、と驚かれてしまった。すんませんね、レベルどころかパラメーターまできれいにそろって一しかないゴミザコが勇者で。俺だって、異世界来てべったべたの勇者なのに俺TUEEEEができないとは思わなかったわ。実は特殊なチート能力が、とかもふつーにいっさいねえし。ざけんな。金返せ。払ってねえけど。


「ところで勇者様。失礼ながら、なにか叙勲を受けておられるのでしょうか」デネブがとまどいながら尋ねる。「お見受けする限り、称号などはお持ちでないようですが」


 叙勲? 称号? なにそれ食えんの?


「王侯貴族でもなく誉れ高い称号も持たない者が、サーネーム、つまり姓を勝手に名乗ることは、アンティクトンでは固く禁じられています。発覚すると死刑になるので、よしたほうが……」


 え、マジで? デネブはこくんとうなずく。

 死刑て。ちょっとかっこつけて名乗っただけで死刑て。どんだけ処刑沸点低いんだ。異世界、いろいろとヤベえな。

 そういや、受付のお姉さんが、俺の名前を聞いたとき意外そうな顔をしてたっけ。

 まずい、早く登録を訂正しないと。首はねられるか、吊るされるか……。


 街を出入りする旅人の顔が見えるほどに近づいた入口へ向かって走りだす。デネブが「勇者様っ?」とあわてて駆ける。

 見えない自由がほしくて、見えない十字キーとBボタンを押しまくる。JRトレイン私鉄トレインが走っていれば、どこまでも行けるのに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る