ある日、森のなか、ドラゴンさんに出会った、腕出てくる森の奥、ドラゴンさん(高レベル)に炎のブレス攻撃を受けた
森は暗く、果てしなく広かった。
木の葉の天井で光は遮られ、曇り空だったこともあって、周囲は夕方遅くのようだ。本当に夕方なのかどうかもわからない。スマホがあれば時間も位置もわかるのに。
走れるだけ走ったあとは、当てもなくひたすら歩き続けた。行けども行けどもあるのは木と木と木。同じ景色が延々と続く。もしかしたら、本当に同じ場所をぐるぐる回っているのかもしれない。で、ゴブリンたちとまた鉢合わせ――
やめてくれ。さっきのアイテムはもうない。そうでなくても、森なんてモンスターとのエンカウント率が高い地形だろ。いつ遭遇するかわからない。どうせ話にならないほど強い奴が出てくるに決まってる。大量の犬といい、高レベルのゴブリンといい、これがゲームならバランス調整めちゃくちゃだ。ベータ版どころかアルファ版としてもありえない。運営は土下座して緊急アップデートしろ。詫び石配れ。あと勇者の俺にはボーナスで聖剣よこせ。まがいものじゃないちゃんとしたやつ。
うつむきがちにぶつぶつ愚痴っていた俺は、ゆく手にそいつがいることに気づくのが遅れた。
ひどく低い、地響きのようなうなり声に、はっと前を凝視した。
ゆうに電車一両ぐらいはあるだろうか。その巨大な体躯は、森によく溶け込む地味な深緑だった。見るからに硬質な表皮。
【フォレストドラゴン/レベル:六十四】
いやいやいやいや、おかしくね?
てかおかしくね?
ドラゴンて。六十四て。
ここどこだよ。終盤のラスボスの拠点付近かよ。おかしいだ――やっべ、ドラゴンが口を開いた!
ブレス攻撃だ。俺はとっさに木の陰に飛び込んだ。入れ違いで、赤い炎が火炎放射器よろしく木の間を縫う。人間の背丈ほどあるそれが、ゴオオオオと滝のような音をたててまっすぐに伸びた。熱風に俺は、あちゃちゃちゃちゃっ、とわめきながらもんどり打った。
木から飛び出た俺にドラゴンの顔が向く。この世のものとは思えない、無骨で破滅的な形相。タマがヒュンと縮みあがる。俺は光の速さで手近の木に逃げ隠れた。
「あ、あの。ここで火はやめたほうがいいですよ? 火事になったらヤバ……ひいいっ」
俺の説得に耳を貸す気がないのか、そもそも普通に人語を解さないだけか、俺の隠れている木に第二波が放たれた。
炎は木に分断されてY字型に広がる。あづあづあづあづっ。左右両側から熱されてオーブントースターの食パンの気分だ。とっとと逃げないと真っ黒こげのトーストだ。
俺は火炎のブレスのあいまを見計らい、木から木へと移動しつつ距離をあける。幸いドラゴンの動きは鈍重そうだった。ブレスの射程範囲外に出てしまえばこっちのもんだ。
前後を確認しつつ後退しているときだった。俺はまたしても転んでしまった。なにかに引っかけた感じじゃない。もっと明確に、足をつかまれるような――実際に、つかまれていた。地面から生えた土気色の手に。
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