タロットカードの導き

蒼井茜

死神と共に

第1話 プロローグ

 英雄の血族と呼ばれる存在、それは過去異なる世界から何者かの気まぐれで迷い込んだ、あるいは明確な意図をもって呼び出された英雄たちの子孫である。

 彼らは例外なく特別な力を見に宿していた。


 一振りで山を切り崩す剛剣であったり、魔術をはるかに超えた超常現象を引き起こす力であったり、死者をも生き返らせる奇跡であったりと個人が抱えるには大きすぎる物だった。

 故に時の政府は彼らを自軍に取り込もうと躍起になり、そして彼らを理由に数多くの戦が繰り広げられた。


 それに嘆いた英雄の血族は小さな集落を作り、わずか100人の村でありながら大国に匹敵する組織となった。

 その組織が壊滅するまでの間、英雄の血族を巡る争いは途絶えわずかに残る血族を取り込んだ大国の支配力も拮抗して世界は一時の平穏を享受していた。

 そんな最中である。

 血族としての力を示すことができれば大成は約束され、更には巨万の富に埋もれる事ができる時代において一人の血族がここに。

 アルヴヘイム共和国領土ミストレスの街の一角で彼は……。


「タワーのカード、崩壊を意味している。言いにくい事だけど今の恋人と結婚しても破滅しかないみたいだね」


 占いをしていた。

 対面するは目に涙を浮かべた、否、今この瞬間に涙を溢れさせた美しい女性。

 彼女は代金の代わりと言わんばかりに平手打ちを叩きこんで席を立ち、そしてそのまま雑踏に紛れてしまった。


「……あー、やっぱ言わん方が良かったかな」


 赤く腫らした頬を撫でながら店じまいの準備を始めた男は英雄の血族の数少ない生き残り、名をナルという。

 これはナルが死ぬための物語である。

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