異世界ロマンス詐欺の被害者系ヒロイン

ちびまるフォイ

勇者チャリできた。

「お前もういらねぇわ」


「えっ」


「えーーっと……なにちゃんだっけ?」


「アリア! ほら、最初の村で悪者に助けてもらった!

 それで回復魔法が得意で最初の頃は……」


「うん、もういいや。名前覚えられないし」


「うそ……」


ヒロインは泣きながら相談所にやってきた。


「……というわけで、私捨てられちゃったんです~~!!」


「それで、勇者にはどれだけお金を出したんです?」


「冒険で新しい剣が必要だからって、1000万G。

 私との国を作るためって1億G。

 魔王を倒すための学校に通うって3億G……」


「それ、異世界ロマンス詐欺ですよ」


「ちがいます! 彼の愛は本物です!!」


「じゃあどうしてあなたはここに来たんですか」


「それは……後学のため?」


「現実から目をそらしてもだめですよ。

 あなたは見事に騙されてお金を巻き上げられた挙げ句に

 ヒロインポジを奪われて、金だけ回収されたんです」


「うわぁぁ~~ん!! なんでよぉ! 異世界くらい現実を忘れさせてよーー!」


「多いんですよ、異世界でこういう詐欺。

 恋に落ちたヒロインからお金をまきあげて、

 都合が悪くなったら冒険に行くとかいって夜逃げするパターンが」


「私はどうすればいいんでしょう……。

 悪落ちして、勇者の前に魔王として登場するしかないんでしょうか」


「回復魔法しか使えないんでしょ?」

「そうだったーー!!」


ヒロインは再び自分の腕枕に顔をうずめて泣きじゃくった。


「でも、大丈夫です。そのための相談所ですから」


「勇者をやっつける魔法でも使えるんですか?」


「チート使う相手にそんなのは無意味です。

 だから、今度はあなたが勇者を騙すんですよ。さあこちらへ」


相談所の人が案内したのはたくさんの変装が収められているクローゼット。


「あなたも知っての通り、勇者は新しい女に弱いです。

 ここにある変装キットを使って変装して再登場するんですよ。

 で、今度は勇者をあなたに惚れさせる」


「私が今度は勇者に貢がせるんですね! 痛快じゃないですか!」


「では、さっそく変装してみましょう」


捨てヒロインは再び表舞台へ返り咲くべく変装した。

魔法具だけあって単なる変装の域にとどまらず、

もはやトランスフォームと言ったほうが良いくらいの出来栄えだった。



「フッ……私に構わないで」


「ミステリアス系は勇者の好みじゃないです。次」



「おにいちゃん、ぼうけんしゃさん?」


「ロリ枠は埋まっています。次」



「ボクも冒険についていくよ。勇者」


「ボクっ娘は男ウケが悪いです。次!」



「はぁ~~い❤ ボウヤ、お姉さんと遊ばない?」


「字面だとどう見てもババアです。次!」



「わっかんないわよ!!!」


ヒロインはかつらをぶん投げた。


「私ずっとこういう王道ツンデレでやってきたのよ!?

 今さら、新しいヒロインになんてなれないわよ!」


「あ、そういえば、まだ勇者パーティに従者キャラはいなかったですね」


「じゅうしゃきゃら?」


「メイドとかそういう感じのキャラですよ。

 丁寧語しゃべっていればいいだけなので簡単でしょう?」


「それって……地味じゃないですか?

 一回勇者に見捨てられた私としてはトラウマが……」


「試してみてください」


ヒロインは売り言葉に買い言葉でメイドの別キャラとして再登場。

こんなのでうまくいくのかと怪しんでいたが。


「よし! パーティに入れよう!!」


わかりやすく効果てきめんだった。



(やったー! キワモノ系のキャラが多いから

 私みたいな常識人キャラが欲しいってのは本当だったんだ―!!)


ヒロインは大音量で心の声をやまびこした。

勇者としても新しい属性のヒロインを手に入れたことに鼻の下の伸ばしご満悦。


「おいメイド」

「はい」


「なぁメイド」

「なんでしょう」


「メイドちゃぁ~~ん!」

「なんですか、ご主人さま」


もはや様相を描写することすらためらわれる程、

勇者はぞっこんベタボレ沼に肩までつかって100秒くらい経過した。


今まではことさらに「すごい俺」を魔法なり戦闘なりで見せつけ

ヒロインに「キャースゴイ」などと言わしめていただけの勇者が、

従者キャラの投入で「甘やかされたい」というおぞましい世の男子のさがが表面化した。


そしてついにヒロインは膝枕で頭をなでなでしている痛い構図のときにけしかけた。


「ご主人さま」

「なぁにぃ」


「実は1000万Gする剣が欲しいんですが。

 私もご主人様のように強くなりた――」


「いいよぉ。2本買っちゃぅ」


用意していた言い訳を全部話しきる前に借金返済。

ヒロインは味をしめて次々にねだった。


「私と、その……ご主人様との国を作りたくて

 できれば1億Gほど――」


「払う払うぅ~~♪」



「あと、私も魔法を勉強したくなったので

 学校に行くため3億G――」


「いくらでも払ったげるよぉ~~」



ちょろい。

チートで工夫や試行錯誤を放棄した勇者を手玉にとるのは造作もない。


「お金に困ったらいつでも言うんだよぉ。

 あと、ぼく冒険に行ってきたからぁ、なでなでしてぇ」


「かしこまりました。あ、ケガもされてるようですね。

 ヒーリング!」


ヒロインが魔法を使った瞬間に勇者は顔色を変えた。


「どうしたんですか、ご主人様」


「お前、どうしてその魔法を覚えてる?

 さっき魔法を勉強するといっていただろう!!」


ヒロインはわかりやすく「しまった」と表情に出てしまった。

警戒モードに入った勇者は誰よりも手強くなってしまう。


「術式展開! 解析モード! アナライザー!


 ……なるほどな。お前、あのときのヒロインか」


「うっ……」


「知ってるぞ。最近そうやって恋に落ちた相手から金を取る

 異世界ロマンス詐欺が流行ってるんだってな。

 捨てられてから変装してまた俺にアタックするとは大胆じゃないか」


「……」


「女ってのは魔王よりも恐ろしいな、まったく。

 ここでお前は消しておかなきゃ次もやってきそうだ。

 昔の仲間のよしみで最後に残す言葉くらい聞いてやるよ」


「……じゃない」


「あ? なんだって?」



「ロマンス詐欺はあなただけじゃないのよ?」



ヒロインはタイミングを見計らってわざと勇者の懐に入り込んだ。

その瞬間、別の勇者が転移魔法ですっ飛んできた。。



「貴様ァ!! 俺のメイドちゃんになに手ェ出してんだーー!!!」


勇者は死んだ。

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