キャンバスの中で

勝利だギューちゃん

第1話

2月に入った。

まだまだ、寒さが厳しいこの時期、僕は浜辺にイーゼルを立てて、絵を描いていた。

描く物は、海・・・

でも、それだけではない・・・


そう、もうひとつの大切なものを、キャンバスに収める。

そう、思い出を・・・


その日も、いつものように絵を描いていた。

真っ白なキャンバスには、誰しもが自分の世界を映し出す事の出来る鏡。

そう、それが、誰にも、認められなくても・・・


「いるんだろ?」

「やはり、気付いてた?」

「まあな」


浜辺には、僕しかいない。

そう、姿形のある生物は・・・

しかし、彼女は存在する。


他の誰にも見えないが、僕の心の眼には見えている。


「さすがは、私の元彼だね」

「元はいらない。僕は今でも、君の彼のつもりだ」

「でも、死んだ人間の事は、忘れた方がいいよ」

「相変わらず、ポジティブだな」

「それが、私の取り柄だもん」


「でも、よくここがわかったな」

「私は君の、彼女だよ。彼の事ならわかるよ」

「そっか・・・」


「相変わらず、絵ばかり描いてるんだね」

「ほっとけ」

「君の、奥さんになる人は、苦労するね」

僕は、耳を傾けながら、筆を走らせる。


幸い人通りがほとんどないが、もしいれば、危ない人と思われる。

でも、それでもいい・・・

例え、霊でも彼女と話せるのなら・・・


「よし、出来た」

「見せて」


そこには、波と戯れる水着姿の彼女がいた。


「私、ビキニなんて着た事ないよ」

「ああ、胸は成長の途中で、逝ったからな、君は・・・」


こつんと頭を叩かれた。

霊なので、痛くないのだが、痛く感じた。


でも、それが心地いい。


「その絵、どうするの?」

「家で、完成させる」

「まだ未完成?」

「ああ」


そうして僕は、帰る準備をする。


「また、私現れるよ」

「ああ、待ってるよ」


家に着いた僕は、キャンバスに描き加えた。

僕の絵を・・・


そして・・・

生まれてくるはずだった、子供の絵を・・・


もう、その願いは届かない・

せめて、キャンバスの中では、家族3人、微笑んでいたい。

願いを込めて・・・

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キャンバスの中で 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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