第36話
「ねぇローリー」
右腕が完全に治るまであと少し、というところでメアリーに話しかけられた。
にこやかな表情ではあるが、その目は真剣そのものだ。
「前にローリーが妹と似ているって言ったけど、グリムも妹そっくりだったわ」
「魔導書にそっくりな人間? 」
どういう事だろう、身体がめくれるのか、それとも頭が四角いのか、全身に詩集が施されているのか……なんにせよ恐ろしい姿しか想像できない。
「変なこと考えているみたいだけど、ローリーみたいな見た目でグリムみたいな性格の女の子だったわ」
「それは致命的」
外観がどうこうというよりも、性格がグリムに似ているというのは人として最悪の部類なのでは、そう考えた瞬間に妙な圧力を感じたが気にしない。
「あんなに毒を吐くような性格じゃないのよ、意地っ張りで、恥ずかしがり屋で、でも人の事を放っておけない性格だったの」
「そう聞けばいい子」
「グリムはそこに素直じゃない、が加わるけど……もしかしたらあの子も、なんて今になって思い出すのよね。あの時は~とかこの時も~とか。私が鈍くて気づかなかっただけなんじゃないかなって」
人の知らない一面という事だろうか。
だとすれば、今僕が見ているメアリーも今まで知らなかった一面だ。
張り詰めた糸のようだった初対面、氷のように冷たく厳しい道中、烈火のように死を避けようとした戦闘中、そして例え様のない今。
「だけど、今となってはそれを知るすべもないから全部想像なんだけどさ。そのうちちゃんとお墓参りに行ってあげたいなって思うの」
「墓参り……? 」
死者の遺体を埋めた場所に行って霊魂を慰める行為だったか。
けれど誰かが言っていた気がする。
墓参りは死者のために生者が参るのではなく、生者が使者に頼るためのものだと。
頼るのも悪い事ではないし、弱みを見せられる相手は貴重だという。
そういう意味では死者の霊魂が眠る場所というのは、良いのかもしれない。
「そう、お墓参り。いままでずっと避けていたんだけど、なんか死にかけたり、訳の分からないもの見たりしたらさ、張り詰めていた気もゆるんじゃって。あの子のお墓に行ったら全部終わっちゃいそうだったけど、今ならそれも含めてすべてを受け入れてもいいかなって思えるんだ」
「メアリー、僕は本が好きだ」
「うん? 」
「今まで沢山の本を読んできた」
「うん」
「その中で英雄譚とかを読んでいると、メアリーみたいなことを言った相手はみんな死んでいる」
「う……ん? 」
「つまりメアリーはこれから死ぬ」
「不吉なこと言わない! 」
ビシッと音を立てて額を指で突かれた。
存外痛い。
「死ぬつもりはない、ただ今回、本当に死ぬ一歩手前まで追い詰められたからか、死ぬことの怖さを認識できたってだけよ。そしたら急に意地を張るのもばからしくなっちゃったってだけ」
「この戦いが終わったら? 」
「私妹のお墓参りに行くんだ……いや、戦いが何なのかは知らないけどローリーがある程度成長してくれたらかしらね」
そういうメアリーの表情は、普段見せている物とは違って柔らかかった。
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