第34話

「さて、ローリー。あの蛇についてだが」


 グリムが重々しく言葉を発した。

 蛇を殺した瞬間から徐々に肉体の再生が始まり、腕が生え始めている。

 その辺りから考えると、あの蛇は僕の再生を阻害する何かを有していたという事だ。

 そして僕を狙っていた理由等疑問は残る。


「……ホムンクルス」


 それらの疑問に対する唯一の答えがそれだ。

 メアリーに聞いてもあんな化け物は初めて見たと言っているし、ならば0から作り出された存在と考えたほうが分かりやすい。


「その通りだ、俺たちが情報収取用の存在なら、あれは戦闘用個体と言ったところか。考えようによっては俺たちの兄弟と言えるかもしれないな」


 本と蛇と幼女と糞野郎で構成された家族関係、それは別の問題につながりかねない環境なのでは。


「糞野郎を家族の範疇に含めるな、間抜け」


「確かにその通りだ、謝罪する」


 グリムの剣幕に押されて思わず頭を下げる。

 どうやら僕異常にグリムはドクターを嫌ったようだ。

 なかなかにねちっこい。


「話を戻すが……あの蛇はホムンクルスで、更にお前の再生を阻害するような手段を持っていた可能性がある」


「対僕、というよりは対ホムンクルス」


 僕たちは戦争での利用を目的としていたから、敵がそれらを利用しはじめるかもしれない。

 そう考えれば辻褄は合う。

 けれど……やはりそうなってくると一つ問題がある。

 戦闘中何度かその可能性が頭をちらついていたが、考えうる限り最悪の仮定を元に予想をしていかないといけない。


「ドクターが生きている可能性……」


「正確には、奴の意思だな。何らかの方法で生き返ろうとも不思議じゃないだろ、あれは」


 そうだ、あの男の肉体は確かに破壊した。

 けれどその意思は、魂は、そう言った観測できない物はどうだ。


「というかなんだ……あの男がこれくらいで死んでたら俺達は生まれていないと思うんだがな」


「全く持ってその通りだ」


 反論の余地もない。

 夢で見た光景が現実だとするなら、蛇がどこかの研究所で暴れた時もあの男はいたはずだ。

 だというのに平然と生き延びて僕達を作り上げている。

 あの蛇の猛攻をドクターが切り抜けたのだろうか。

 確かに魔法や錬金術に関しては一級品だ。

 だとしても、あの蛇を相手にどこまでやれる。

 少なくとも僕はグリムがいたから勝てたし、メアリーがいなければグリムが起きる前に負けていた。

 メアリーは一人でなら逃げることもできただろうけれど、それは屋外、それもこのうっそうとした森の中ならばという限定的な条件の下でだろう。

 研究所はその性質上隔壁なんかもあるだろうし、入り組んだ作りになっている。

 直線の通路なんかも多い。

 そんな状況であの蛇が榴弾を使ったら……研究所内で使える魔法としては水か風くらいの物だろう。

 どちらも守りに向いているのは確かだが、それだけで防ぎきれるようなものとは思えない。


「ローリー、悪い癖が出ているぞ」


「……? 」


「無意味なところで考えすぎる癖だ」


「そうなの? 」


 自分にそんな癖があったとは初めて知った。

 だが言われてみると確かにそうかもしれない。


「わかったらもう少し気楽に考えろ、相棒」


「そうさせてもらうよ、相棒」

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