「あの日」

 あの日、中学2年生の3学期も終わりに差し掛かりあと数日で終業式で春休みという時期にオレはたまたま早起きをすることが出来たので黒い学ランに身を包みながらいつもより30分早く登校した。いつもは7時40分頃登校するところを7時10分に登校したオレを待っていたのは変わった景色だった。


「おはようございます」


 玄関の前で数名の生徒が挨拶運動を行っていたのだ。我が校の挨拶運動は7時30分位には撤収するのでほとんど見たことがないオレにとってこの挨拶運動は新鮮だった。


「おはようございます」


 彼らのあいさつに応えるように大きな声で言いながら玄関をくぐった。


 玄関をくぐり下駄箱で靴を履き替えたオレは階段を登り2階へと向かう。その時だった、


「おはよう、坂田君」


 突如上空から陽気な声で声をかけられる。階段を見上げるとそこには美里さんがいた。


「お、おはよう櫻井さん」


 突然意中の美里さんに声をかけられ驚いたオレはしどろもどろに応えた。美里さんはそんなオレにニッコリと微笑みかけると職員室に用があるのか階段を下りて行った。


 隣の席だけど彼女は人気者だからほとんど話したことはない。まさかいつもは人が集まっている彼女と二人きりで会えたばかりか挨拶も出来るなんて、おばあちゃんが言っていた早起きは3文の得というのは本当なんだなあ、なんて考えながら教室へと向かった。


 教室に入ってからはクラスメイトと軽く挨拶を交わして席に着く。しばらくして用を済ませたのか美里さんが入ってきたけれど既に男子生徒に囲まれていた。彼女を囲む中にはその他の男子もオレが女だったらクラスで付き合いたい男子トップ5全員が入っていて、顔もよくスポーツマンでクラスの人気者で彼女持ちの田中もいた。


 彼女がいるというのに一夫多妻制というやつか。こんなことを許して良いのか! ? ……世の中は不平等だ!


 情けないことにオレの唯一の希望は美里さんが遠慮がちにやんわりと彼らとのかかわりを避けているように思えるところからオレの様に素朴で真面目な男子がタイプなのではないかと推測するくらいだった。


 そのまま時は流れ放課後、今度は美里さんがオレの中の女子の付き合いたいランキングトップ5に入っている4人と共にどこかへと向かった。


「人気者は大変だな~」


 そう呟きながらもオレは本を片手に図書室へと向かう。帰宅部のオレにとってこうやって放課後は夕陽の差し込む教室で読書をするのが日課だった。ガラリと図書室の扉を開く。しかし、図書室は他の生徒でいっぱいだった。図書室だというのに呑気に談笑をしているのを見て静かに扉を閉める。


 教室は教室で談笑している同級生がいるので静かに読書するという目的を果たすための目標を見失ったオレはしばらく考え込む。そして、昔清掃の時担当だった4階の存在を思い出した。あそこは物が乱雑されている者の夕陽が差し込み胡坐とはいえ座って読書をできるスペースがある上にそんなところに用がある生徒など存在するわけもなく人もいないであろうから今のオレにはぴったりの場所だ、と考えたオレはすぐさま階段を登って言った。


 階段を登り3階へ、更に登り中間の少し広く平坦になっている3.5階というへきスペースに差し掛かった時だった。


「本当最低だね櫻井さん、あてつけのつもり! ? 」


 小さいながらも迫力のある声が4階から聞こえた。みるとそこには櫻井さんと先ほど一緒にいた4人がいた。


 


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