第45話「2人は付き合っているの? 」

 海水浴の翌日、オレは櫻井さんといつものように買い物をしていた。写真の件は……まあこうやってひかれたわけでもなく会いに来てくれるわけだから良しとしよう。


「修三君、今夜は何にするの? 」


「ハンバーガーかなあ」


「ハンバーガー! ? 」


「うん、写真で見たのが美味しそうだっからアボカドとか買って贅沢に作ってみようかなって」


「へえ、私も今度作ってもらおうかな~」


 といつものように会話をしているも異変に気が付いた。


「何か、若い人多くない? 」


 そう、オレ達はいつも通り人の来ない時間帯に買い物をしているにも関わらず大学生くらいの若者の姿がぽつぽつと確認できたのだ。


「言われてみると、お盆近いから帰省してきているのかもね」


 櫻井さんがオレの顔を不安気に見つめながら答える。理由はすぐに判明した。中学時代の友人と遭遇するのを恐れているのだろう。慌ててオレは彼女に語り掛ける。


「じゃあ、明日から10時に買い物にしようか。それならここ数年の経験から誰とも遭遇しないだろうから、まあ見つかっても櫻井さんのお陰で最近オシャレになった気がするからオレだと気付かないかもね」


 冗談のように彼女に語り掛けるが実際、彼女と再会してからオレは髪をセットしているし服も全ての画像を送り選んでもらってなんかもいる。同級生がみたら別人レベルで気付かないかもというのは本気でそう考えていた。


「そっかあ」


 それを聞いて彼女が胸を撫でおろしたその時だった。


「おお~坂田君じゃん久しぶり~」


 突如何者かに声をかけられた。


 言ったそばからこれかい! しかし幸か不幸かこの声は聞き覚えがあるぞ……


 と声のした方向へ顔を向ける。オレの予感は的中しそこには高校時代のクラスメイト、伊藤が籠を持って立っていた。伊藤は相変わらずのショートヘアに高校時代の陽気でスポーツマンな性格をそのまま衣装にも反映したというべきか、ショートパンツに肩を出したTシャツという動きやすい服装ながらもお洒落に決めていた。


「ああ、こんなところで会うとは奇遇だね伊藤さん」


「運命かも……なんてね、帰省シーズンだからそりゃあね」


 相変わらずからかうのが上手だ。この性格故か高校時代彼女はクラスの皆とこのように仲良く会話をしていたのだった。


 ……とこのままでは櫻井さんが置いてけぼりだ!


 オレは慌てて櫻井さんの方に視線を移し語り掛ける。


「櫻井さん、紹介するよ。彼女は高校時代の同級生の伊藤って言うんだ。それで伊藤さん、彼女がオレの中学時代の……」


「え、坂田君、私てっきり見間違いかと思っていたんだけれどもしかしてその子……彼女! ? 」


 オレの言葉を遮るかのように伊藤がいきなり核心をつく質問を投げかける。とはいえ、2人で仲良く買い物をしていたらそう見えるだろうしゆくゆくはそのように……ってこの場合なんて答えれば良いんだ?


 心なしか伊藤だけではなく櫻井さんの視線までオレの答えに期待しているように感じる。オレはすぐさま頭を何とか回転させて考える。


 さっきは流れで同級生と答えてしまうところだったけれど、確かにここでの解答は重要だ。オレと櫻井さんはどちらかが告白をしたわけでもないので付き合ってはいない。しかし、気持ちがないかといわれるとそんなことあるはずがない! これをそのまま伝えられたらいいのだけれどそうはいかない。だから否定か肯定かしかないのだけれど……


 仮に現在の状況だけをみて「彼女ではないと答えた」とする、となると櫻井さんはどう考えるだろうか? もし彼女がオレに好意を持ってくれていてそのオレから「彼女ではない」と否定されたら傷つくのではないだろうか?


 逆に「彼女だ」と答えたら? 映画館の時とは状況が異なりこれは告白みたいになってしまうのでは? 実のところハロウィンという大イベントが控えているので告白はそこで……という考えの元、告白はそれまで控えたい。スーパーで以前の同級生に聞かれて告白というのは……


 ならいっそ笑って誤魔化すべきか? いやそれは櫻井さんの視線を感じるあたり注目している中だからはぐらかして頼りないと思われたら嫌だな。


 3つ案を考えるもどれもリスクがある気がする。この中から1つ選ぶとすれば……


「ハッハッハ勿論彼女に決まっているじゃないか伊藤君、野暮なことを聞かないで送れよ。ねえ櫻井さん」


 ……オレの選択は2番だった。「告白」であって「告白」でないというのがミソでそこを強調したのだけれどオレの答えは正しかったのか。


 それを確認すべく櫻井さんをチラッと横目で見る。彼女は「うん」と答えたものの手で真っ赤になった顔を押さえて俯いていた。その様子をみた伊藤さんが豪快に笑う。


「そりゃ悪かったよ、それにしても坂田君もこんな可愛い子捕まえてスミにおけないね~それじゃあお邪魔虫は失礼するよ。末永くお幸せにね~」


 オレを数回小突いたあとそんなことを言って伊藤さんは手を振ってオレ達が先ほどまでいた精肉コーナーの方へと消えていった。


 さて、残るは……


「修三君、さっきのは」


 ……櫻井さんにどう説明するかだ。


「えーっと、さっきのはね……その……」


 想像していた以上にかなりの難題だ。オレの先ほどの思考をそのまま説明するわけにもいかず適当にはぐらかすわけにもいかず…………どうしよう。ええい、こうなったら!


「……嫌だったかな? 」


『絶技! 質問を質問で返す』だ!


「ううん、そんなことないよ」


 彼女は両手を慌てて振る。それを聞いてオレは心底安心した。


「そういえばさ、伊藤さんなんだけどこの近くに住んでいるの? 」


 櫻井さんが目を逸らしながら尋ねる。それを聞いてオレはハッとする。


「いや、隣町だったはずだけど……」


「じゃあ、何でこのスーパーにいるんだろ? 隣町にもスーパーってあるよね? 」


 言われてみると確かに不思議な話だ。怖い話という訳でもないのに背筋がぞくっとした。


 その後、オレ達はどうして彼女がここで買い物をしていたのかについて熱く語り合うのであった。



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