第15話「誕生日プレゼント」

 オレは櫻井さんと手を繋いだ後、彼女と一緒に斎藤さんを待って3人で電気屋へ向かった。斎藤さんはオレと櫻井さんが手を繋いでいるのを見てニヤリと笑ったような気がする。


「それで、櫻井さんは何を買いたいの? 力になれるものなら力になるよ! 」


 さっきの櫻井さんの柔らかい手の感触を思い出すとうまく話せない。何故かおぼつかない口調になってしまう。とはいえ、電気屋と言っても都会みたいにゲーム類は置いてなくゲーム以外は機械の知識はほとんど皆無なため格好良く決めたところで力になれるとは限らないのだけれど………………


「い、いや、大丈夫だよ多分! そのときになったら分かると思うから」


 櫻井さんもどこか上の空という様子でたどたどしく答える。


 さっきのことを思い出してくれているのだろうか? それとも………………何か買っているのをみられると恥ずかしいものが? だとしたら触れないほうが良いかな? そういえば、何と高校時代に付き合ったことがあるらしい赤木が「女の子と買い物に行くと観念して待つのが男ってモノだ」と言っていた。そういうことなのだろうか?


 そんなことを考えていると電気屋に到着したようでドアが開いた。


「それじゃあ、ごめんね修三君。私ちょっとお買い物してくるから店内をみていて」


「わかった」


 ここでいう店内というのは櫻井さんがいないところという意味だろう、それくらいはオレにも分かる! 正直ここで「じゃあ美里さんの近くを見て回ろうかな」というと先ほどのようにクサいと言われてしまうだろうので自重した。


 さて、店内に入ると櫻井さんは右側に回った、ここの店内は2階がない分かなり広く同じ方向に曲がってもかなり入り組んでいて追いかけようとしない限り何を買うのかは分からないのだけれど念のため左側へと曲がる。左側は冷蔵庫やテレビ、マッサージチェアなどが置かれている。


 昔は親の買い物中に店内のテレビをみたりマッサージチェアに座ってくつろいでいたりしたなあ………………ってこれじゃ昔親と買い物に来た時と変わらないじゃないか! ! !


 とはいえ、最近は厳しいのかマッサージチェアには座りにくく冷蔵庫をみるのは楽しいけれど買うことはできないので仕方がない、テレビをみることにしよう!


 オレはそう決断してテレビのコーナーへ行き大画面テレビの前で腕を組みリッチな気分を楽しむことにした。


 劇場のスクリーンみたいでこんな大画面でアクション系とかみると映えるだろうなあ。それに特撮系とかの劇場で上映されることのないけどアクションシーンがあるものをこういうテレビで見ると映画館で観ているみたいで楽しめそうだ。


「お待たせ」


 オレが大画面テレビに見惚れていると櫻井さんが手に大きな袋を持ちながらやってきた。どうやらお目当てのものが手に入ったようで嬉しそうに笑っている。


 そういえば、櫻井さんの家のテレビはこれくらい大きいのだろうか? 本人が丁度目の前にいることだし尋ねてみることにしよう!


「無事買えたみたいで良かったよ、ところで櫻井さんの家のテレビもこんなに大きいの? 」


 オレが尋ねると彼女は首を大きく横に振る。


「丁度これくらいだね」


「え! ? このテレビが家にあるの! ? 」


 なんと流石というべきかお金持ちなだけあってテレビも大きいようだ。


「丁度今、こんな大画面でアクション系のものをみると迫力あるだろうな~って考えてたんだ。美里さんはアクション系の作品何かみるの? 」


「私はあまりみないなあ。最近は………………」


 そう言って彼女は頬を紅く染める。


 こんな大画面テレビがあるのにアクション系をみないとは何と勿体ない! これで特撮とかみたら迫力あって楽しめそうなのに……しかし、好みでないのなら仕方ないかなあ。それよりも何故このタイミングで彼女は頬を染める! ? 一体最近は何を見ているというんだろうか?


 次の言葉を待っていると彼女が観念したように口を開く。


「………………最近は、恋愛系かな? 」


 華やかな彼女らしい特に恥じることもないタイプだとは思うけれど彼女はどうして恥ずかしいとまでに頬を染めているんだ? ああ………………そうか!


 やがてオレは1つの結論に辿り着いた。


「キスシーンとかも大画面だと照れちゃうよね」


 そう、恋愛系には必ずと言っていいほどどこかでキスシーンが入る。それは必然でありオレも

 櫻井さんといずれはキスをしたいと考えているのだけれどまだそこまでの段階に達していないと思うので、それは置いておいてキスシーンでは当然俳優の顔がアップになる。かなりの刺激的なシーンだ。それが大画面でとなれば当然刺激も何倍となることだろう。彼女はそれを思い出して頬を染めたのだ!


 案の定、オレの推測は当たっていたようで彼女の頬はオレの言葉を聞いて更に赤く染まっていく。


「う、うん、そうなんだよ! 画面が大きいと刺激が強くて」


 赤く染まった頬を隠すように手で覆いながら彼女は答えた。


「あ、あと大画面だとミステリーとかも結構怖いよね」


 オレの予測は当たっていたのは嬉しいことだけれど、だとしたら言って良かったのか疑問に感じたので話題を少し変えることにした。


「そうなんだよ、最近はマイルドになったけどそれでも結構怖いんだ」


 すると彼女が少し楽になった様子で答える。とはいえちょっと誘導がミスだった気もする。大画面で楽しいこと………………そうか!


「他にも料理番組とかだと余計に美味しそうにみえそうだよね! 」


「そうなんだよ~。ご飯食べる前に食べ歩き番組とかみちゃうのお腹が余計空いちゃってさ」


 どうやら料理番組の話題はうまくいったようだ。彼女の頬は元の綺麗なピンク色に戻っていた。ホッと安堵のため息をこぼす。


 そうしてオレは彼女と大画面テレビの話と映画の話をしながら車に乗って帰路についた。


 数十分後、車は停車する。暗くはなっているが見渡すと数軒の民家が立ち並ぶ見慣れたオレの家の前の景色だ。


「時間が経つのってあっという間だね~。今日はありがとうね修三君! 」


「オレこそ今日はありがとう、楽しかったよ! 斎藤さんもありがとうございました」


 2人にお礼を言うと斎藤さんがそれに応えるかのように扉が自動で開いた。どうやら斎藤さんが扉を開けてくれたらしい。すると何故か櫻井さんが慌てて先ほど電気屋で購入したらしい袋を取り出した。


「修三君、これ! 修三君のために選んだんだけれど良かったら受け取って! 」


「ありがとう」


 何ということだ、もしかして櫻井さんはオレに何かを渡すために電気屋に寄ってくれていたのか! ? 一体何を! ?


 チラっと袋のほうに目をやると中には………………水色のヘアアイロンがあった。


「ヘ、ヘアアイロン! ? 」


 思わず声に出すと櫻井さんが頷く。


「そうなんだよ、昨日話したからさ。プレゼントしたいなって思って………………何してるの修三君? 」


 オレがヘアアイロンを見てから何やら慌てて動いたのを見て彼女が不思議そうに尋ねる。


 何をって決まっている! お金を払うために財布を探しているんだ! 映画に加えヘアアイロンまで買ってもらうなんてまずいだろう! でもなかなか財布が見つからない! もしかして落としたのか? いや、一番下の奥の方に………………あった!


 オレは財布を見つけてすぐさま取り出す。


「突然驚かせてごめん、ヘアアイロンの代金を支払おうと思って」


「別にいいよ」


 彼女がいつものようにほんわかとして何事もない様に言う。


「いやいやそういうわけには………………」


「あっそうだ! 」


 オレの言葉を遮るかのように櫻井さんがポンと掌を叩いて続ける。


「修三君の今年の誕生日プレゼントだよ! 」


 誕生日プレゼント! ? 確かにオレの誕生日は早生まれのため数か月前に過ぎたばかりだけれどそういうことか? いやいや常識的に今年というけど今年度という意味だろう! まあどちらにせよオレのいうことはただ一つだ。


「そういうことならば有難く頂くよ。櫻井さんの誕生日は何時? 良ければ教えてくれないかな? 」


 そう、誕生日プレゼントにくれるというのならば誕生日プレゼントをオレも渡せばいい! しかし、誕生日プレゼントを渡しあうだなんてカップルみたいで照れる。


 しかし彼女は意味深に微笑んで首を縦ではなく横に振った。


「ひ・み・つ。私はもう貰ってるからいいよ」


 もう貰っているってどういうことだろうか? もしかして………………夕陽が綺麗だったとかあの夕陽をプレゼントとして貰ったとか! ? クサいと言いつつ内心照れていたりしたのかな?


「バイバイ、ポップコーンありがとうね。美味しかったよ! 」


 オレが車から降りると彼女はそう言って手を振った。やがて車が動き出す。姿が見えなくなるのをオレはずっと見送っていた。


 もしかして………………ポップコーンのこと? 本人がそれで喜んでいるのならいい………………のかな?


 オレは頭に「? 」を浮かべつつもヘアアイロンを壊さないように大切に持ち踵を返して家に戻った。

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