第7話「ギリギリセーフ」
櫻井さんから映画に誘われた言わば「デートに誘われた記念日」の午後3時、彼女とスーパーで会って買い物をしながら詳しい待ち合わせ場所や時間を決めた結果。オレ達はせっかく平日暇なのだから人が空いてそうな火曜日に櫻井さんの車で隣町の映画館まで送ってもらうことになった。何と家まで迎えに来てくれるらしい!
オレが櫻井さんからデートに誘われた? 信じられない……! 夢みたいなことだ………………! !
頬をぎゅっうっ! と思い切り抓る。
「痛たたたたたたたたたたたたたたたたたた! 」
ものすごい激痛が走る。痛い………………! これはつまり夢じゃない! ! ! 天にも昇りそうな気持ちだ! ! !
トントントントン! カカカカカカカカカカカカカカカカッ!
間はそんなに空いてはいないが土曜日も母が食事を用意する手間が省ける利点もあるので、今夜はカレーにしようと玉ねぎを切っていたのだが、思わず玉ねぎの半分をみじん切りにしてしまった! 仕方ない、こうなればテレビで見た通り先に鍋に入れ飴色に炒めるとしよう! !
そんなわけで今日の夕食はカレーから飴色に炒めた玉ねぎカレーへとランクアップした!
さて、その夕方オレは履歴書を書くのに四苦八苦していた。購入した履歴書には志望動機欄と自己PR欄が数行存在した。
毎度のことながらここが一番悩む。志望動機は要するに職が欲しいというわけだから女性との交際費を稼ぎたくて友達から良いと紹介されたから………………なんて書いたら一発アウトだろう。自己PRも色々書くと自分で何を書いているんだと布団にくるまって転がりたくなってしまう。
きっと、そういう闘いなんだろうな。
要は面接はどう一貫して理想の自分を演じられるかだろう。ならば行かせてもらおう! そう決心して志望動機・自己PR欄に以下のように記入した。
「私は中学、高校と生徒会長を務め中学高校とリーダーシップを発揮してクラス、学校の皆をまとめてまいりました。友達もたくさんいてサークルでは会長を務め付き合っている女性は片手では数えられないほどを越えました。バレンタインとなると女性が我先にと私に皆それぞれの想いが籠ったチョコを渡しに来るので休み時間はチャイムが鳴るとすぐに逃げ回ったほどです。私はそんな女性たちのためにお金を稼がなくてはなりません。そこでよく道を渡るときは横断歩道を渡り、信号があるところでは信号を待ち渡り、1日1回お風呂に入り寝る前には歯を磨くと正義感溢れる生活をしておりますので私の正義を生かせるようにこちらを志望しました」
………………素晴らしい、まさに業界が求めるを越え引っ張りだことなるような人材だ。
オレはこの履歴書を丸めて捨てて2枚目を取り出し記入に取り掛かった。
履歴書は何とか形になったので息抜きにスマホを起動する。すると驚いたことにメッセージが1件届いていた。
まさか、櫻井さんから! ? オレとしたことが、履歴書にかまけていて彼女からのラインを数時間返さず放置してしまったのか! ?
慌ててパインを開くと
『日曜日はパエリアにしようと思うんだけど修三はパエリア好き? 』
と母からのメッセージが届いていた。
「紛らわしいよ! 」
思わずそう返したくもなるけど考えてみれば櫻井さんと再会する前はパインの相手は母、時々赤木という感じだった。母はいつも休日が近くなるとこうやって聞いてくれる。贅沢を言えばこの送信元が櫻井さんだったら………………彼女のトップ画面をみながらそんなことを考える。
この画像の犬は櫻井さんが飼っているのだろうか? いやいや今はそれよりも母への返信だ! パエリアか………………オレは作ったこともなければあまり食べたこともないな。給食で出たことがあったかな? とはいえ食べられないということはないし作ってくれるというのなら是非食べてみたい。オレは『好きだよ』と打ち込んだ。
それから1分もたたないうちにオレのスマホが「パイン! 」となる。母親からの返事かと思いきや何と櫻井さんからだった!
『え、突然どうしたの! ? 』
何やら驚いているようだ。突然どうしたのと聞かれてもオレからすれば櫻井さんのメッセージこそ突然来たわけでどう返事をすれば分からない。
「もしかして、メッセージの送信先を間違えたのかな? 櫻井さんは可愛いな」
オレは画面をみながらフフッと笑う。しかし、次の瞬間オレの笑みは消え失せた。櫻井さんのメッセージ欄にとんでみると何とそこには母に送信したはずの『好きだよ』という文章がでかでかと載っていた。
「あっ……」
あまりのことに放心状態になる。しかしすぐさま頭を抱えて机に伏せた。
オレは母に送るはずの文章を櫻井さんに送ってしまったのだ! しかもよりによって『好きだよ』なんていう誤解……いや誤解ではないけど誤解されるような文章を! 確かにオレの気持ちに嘘はない! オレは櫻井さんのことが好きだ! ! しかし、メッセージで! こんな形で! ! 気持ちを伝えるのは望んでいない! ! !
オレは急いで『ごめん、あて先間違えた』と正直に打ち込んで送信する。するとすぐに返事が来た。
『修三君、好きな人いるんだ……』
しまった! これは悪手だったか! ! 落ち着け、まだ挽回ができる。そうだ! スマホにはスクショがある! ! オレは急いで先ほどの母のメッセージ画面をスクショして『ごめん、親と間違えた』と送信した。そしたらまたしても返信が来た。
『なんだ、よかったあ。お母さんと元気良さそうで何よりだよ♪』
良くは分からないけど何とかなったようだ。これからはちゃんとメッセージを送信する前にあて先を確認しようと心に誓うのであった。
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