三度目の人生はディストピアで

にとろげん

300歳の誕生日


『ハッピーバースデートゥーユー♪ ハッピーバースデートゥーユー♪』


 ホールケーキの上に並んだ三本のロウソク越しに最愛の妻と娘の姿を見る。常夜灯の包むような光の中、僕――坂井修平は300歳の誕生日を迎えていた。


 11月5日。秋が少し落ち着いて、「もう冬だね」なんて挨拶を交わすようになる頃に僕は産まれた。

 坂井家の長男にして一人っ子。ゆえに惜しみない愛を注いでくれた両親や親族に育てられ、ほどほどの友人たちと平凡な暮らし。いわゆる幸せな人生というやつを歩んできたと思う。


「パパ。早くロウソクを消さないと愛菜が横取りしちゃうわよ?」


 いつの間にかと呼んでくれなくなった妻、愛衣あいが私を急かす。見れば今年で四歳になるウチのお姫様が本日のメインイベント『ロウソクふーふー』の大役を我慢するのに疲れてきた様子で、お行儀悪く前後に揺れていた。


「ははは……それは大変だな。それでは僭越ながら――」


 すうっと煙を引いて役目を終えるロウソクたち。僕の幸せの、最後の1ページ。

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