チート・コンプレックス ~チートスキルを持ったまま異世界から帰ってきたのに、政府機関の美少女に追われる身になった件~
OOP(場違い)
第1章 クズの元勇者と美少女エージェントの出会い編
元勇者なのにこめかみに拳銃を当てられている
「あなたが勇者であることは分かっています、銀閣キンショウ」
頭蓋骨の中をしつこく反響し続ける、この不快なカチャカチャ音は、いったい何から発せられているものなのだろうか。
……おもちゃ?
……それとも、何かの機械?
そういえば、親父がゴルフで使ってるドライバーにも、なんかカチャカチャいう可動部分があった気がする。あぁ、ベルトを外すときの音にも似ているような……。
「無駄な抵抗はしないように。さもなくば……風穴を開けます」
その凍てついた一言は、まさしくピストルから放たれた凶弾の如く、呑気な思考を一撃で打ち砕いた。
……いま頭に当てられているこれは、
引き金ひとつで人の命を奪える、人類屈指の大発明。
放課後、自分の通う高校のエレベーターホール。
人気のないそのスペースで、俺はほぼ初対面の女子に後ろ手を掴まれ、こめかみに拳銃を当てられていた。背後を取られているため、直接自分の目で見たわけではないが、この殺気、この感触。恐らくだが拳銃、もしくはそれに近い何かだ。
「ろ……
「これが冗談じゃないことぐらい、とっくにあなたは見抜いているのでしょう? その
額から噴き出した汗が、眉毛を通り越して目に入る。
コイツ、本当にヤバイ奴だ。俺の正体を知っていて、俺の持つスキルを知っていて、その上で、本気で俺を殺る気だ。
「……あなたは、生きているだけで罪なのです」
何故俺が、ほぼ見ず知らずの相手にこんなことまで言われなくてはならないのか……薄々、というか99%、俺は分かっている。
理由を辿れば……時は2日前まで、或いは3年前まで遡る。
#
4月27日土曜日。
いつものように友達もできず、いつものように微妙な疎外感を感じ、いつものようにクサクサした気分のまま高校から帰宅した俺は、これまたいつものように、自室にこもって鍵をかけると即座にパソコンを起動した。
ネット掲示板に潜り、いつものように住民とマウントを取り合う。
その日の俺の設定は、タワーマンション20階に住む外資系エリート社員(愛車はランボルギーニ、普段はアクア乗り)。当然ながらレスバトルは全戦全勝である。
低俗なレスバトルに嫌気が差してきた俺はIDを変更し、『【悲報】ワイ、異世界転移ものの主人公に抜擢されない』などという5秒で考えたようなタイトルのスレを立てた。
そんなこんなで気付けば時刻は午前1時。
今日も今日とて10時間近くを何の生産性もないネット口論に浪費してしまったことを嘆きつつ、パソコンをスリープモードにして、万年床にダイブ。
ブルーライトによって疲労が蓄積した眼球は、砂漠を彷徨う旅人が水を渇望するかの如く休息を求めている。目を閉じると、微睡みの段階すら経ることなく、一瞬で深い眠りに落ちた。
――目覚めたら、そこは異世界だった。
突拍子もなく、伏線もなく、きっかけもなく。
根も葉も身も蓋もにべもしゃしゃりも血も涙も、身も蓋も神も仏も元も子も、縁もゆかりも恥も外聞も影も形もデモもストも、だってもヘチマも嘘もへったくれも、テレビもラジオも力もお金も奇跡も魔法も、途轍も滅相も心にも欠片も何にもなく。
気が付いたら、俺は不思議な空間にいて、不思議な声に導かれて、異世界に降り立ったのだった。
非日常で、非常識で、非現実的なことが起きたのにも関わらず……俺は案外、平然としていた。
なんて言ったらいいか……「あぁ、やっときたか」という気持ちだった。
長年、まだかまだかと待ちわびていた異世界転移の機会に、ようやっと巡り合えた幸運に打ち震えていた。驚きや不安よりも、そういった喜びと興奮の気持ちが勝っていたのだ。
憧れのな〇う系主人公たちの仲間入りを果たして、俺もチートスキルを手にDQN共をバッタバッタとなぎ倒し、異種族ハーレムを作ってパコパコ子作りする、そんな素晴らしい祝福に満ちた異世界生活をゼロから始められるのだと、胸が高鳴った。
そこは実によくある剣と魔法の世界。
実によくある展開のもと、俺は複数の世界を統括する女神から、とんでもなく強い『チートスキル』を数百個与えられた。
無限に魔法が使えるとか、無限に筋力を引き出せるとか、無限に魔物を従えることができるとか、無限にアイテムが作れるとか、そういった実によくあるスキル群をゲットした俺は、その世界の住人達から「勇者様、勇者様」ともてはやされた。
言うまでもないことだが、童貞も異世界で捨てた。現世で生きていたら俺のような人間は一生ヤレないだろうと思ったし、何より女性への免疫がゼロの陰キャが、ダークエルフや淫乱サキュバスの誘惑に勝てるわけがなく。
まぁそのあと、実によくある物語は進み、3年の月日が流れ、なんやかんやで勇者である俺は難なく魔王討伐に成功。
「やだぁ! ゆうしゃさま、もとのセカイかえっちゃやだぁ!」
「そうだよ! ここでみんなと一緒に暮らそっ?」
などなど、実によくある異種族ハーレムの面々が別れを惜しむ中、俺は女神に時空転移魔法を使ってもらい、元いた現世へチートスキルを持ったまま帰還しましたとさ……。
――そして、目覚めるとそこは現世だった。
4月28日日曜日。
手から炎を出したり半径100メートルの人間の思考を読んだり宙に浮いたり瞬間移動したり、そういったチートスキルを持ったまま現世への帰還を果たした俺は、とりあえずその日は何もせず寝た。
いや、何もせずと言ったら嘘になる。
褐色ダークエルフや淫乱ドSサキュバスのエチエチな体を思い出して悶々とした末に〇〇したり、翌日学校でチート能力を使って無双してやろうと企んだり、魔物から助け出した金髪北欧系貧乳美少女のエチエチな体を思い出して悶々とした末に〇〇したり、感情を失ってされるがままの奴隷少女のエチエチな体を思い出して悶々とした末に〇〇したりした。
要はヒマにかまけて4、5回〇〇した。
あとは、今まで自分に自信がなかったためボサボサに伸ばしていた髪を切って、そこそこ見られるレベルにしたり。
文字通りの『生まれ変わった自分』を、より魅力的に磨き上げた。
これから……『何でも出来る俺』になるために。
そして4月29日月曜日。
今日あったことを話すとしよう。
結論から言うと、異世界で得たチート能力を使って無双……なんてことは、ほぼできなかったのだった。
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