四話 さあ、戦おうか!


 防御魔法を破壊しようと、攻撃を続けるドラゴン達。おぞましい光景だが、あたしはもちろん周りの兵士達が臆する様子はなかった。


「流石は魔王お抱えの兵士達ね。この数のドラゴンが相手でもビビらないなんて」

「当たり前だろう。我々全員は魔王を護る矛であり盾だ。陛下がやると言ったら、どんな相手でも付き従うだけだ。……でも、なんで僕まで」


 はあ、と重々しいため息を吐くユウギリ。その点についてはご愁傷様としか言いようがない。


「シュリ……大丈夫かな」


 距離で言うと、シュリは百メートルくらい先に居る。ここから見ても、風で美しい銀髪が揺らいでいるのがわかる。

 様子が変だったけど、大丈夫かなぁ。あの大鎌を軽々と片手で肩にかけている様子からは、具合が悪そうだなんて少しも思えないが。

 そんな心配を断ち切るように、空から『声』が降ってきた。


 ――愚かな魔王よ。争いを止め、平穏に牙を折った者共よ。世界は戦いを欲している、大地は血と慟哭を求めている。それが何故わからない――


「何これ! ドラゴンが喋ってるの!?」


 あたしだけではなく、兵達の数人が動揺を露わにした。凄い、二次元でよく見た現象だが滅茶苦茶気持ち悪い!

 シキも似たような感じだけど、相手が人の形をしていないからか違和感が半端ない!


「げ、今回のドラゴンは人語を扱うのか」

「喋ると何か違うの?」

「それだけ長く生きて、賢いということだ」


 ユウギリの話によると、ドラゴンは人並みの知能を誇る生物であるが、言葉を解する程の個体は非常に珍しい。群れの長である個体は恐らく、百年以上生きている。

 ドラゴンは生きれば生きる程力を増す。だから、これは難敵であることを思い知らせてくる牽制らしい。


 ――弱者を排除するのではなく、内包する群集に何の意味がある。なぜ、勇者を前に刃を収めた。力を追い求めなくて何が王か。理解出来ぬ。貴様らは、魔界を無意味に食い潰す害でしかない――


「そなた達とは、根本的な価値観が違う。魔族だろうが人間だろうが関係ない。人は他者を理解し、許容し、力を合わせ発展していくことが出来る。そしてそれは、時にそなた達が誇る力を遥かに凌駕するのだ」


 シュリの声が聞こえる。皆が息を殺し、王の言葉を聞こうとしているのだ。しん、と静まり返る空気。

 ドラゴンがくつくつと嗤う。


 ――愚かな魔王よ。かつて、多くの血が流れたことを忘れたか。ならば貴様に魔界の王を名乗る資格などない――


 上空に亀裂が入る。防御魔法が弱まっているのだ。だが、慌てることはない。これはシュリがリンドウにあらかじめ指示していたことだ。

 敢えて防御魔法を弱め、直接対決をする。


「やれやれ。ドラゴンは本当に好戦的で困る。だが、これで話し合いは決裂したと判断する。ならば、そなたらは余の敵だ。魔界の平穏を脅かすつもりなら、容赦はせぬ。死を覚悟している者だけ、かかってくるが良い!」


 シュリの宣言で、戦いの火蓋が切られた。防御魔法が砕け散り、待ってましたと言わんばかりにドラゴン達が襲い掛かってくる。兵士達から猛々しい雄叫びが上がる。あたしも剣を抜いて、突っ込んできた敵を睨み付けた瞬間、


 凄まじい爆音が、鼓膜を震わせ空を焼いた。



「……何だ、今のは」


 我ながら素っ頓狂な声が出た。ドラゴンのブレスにしては一瞬で、魔法にしてはなんていうか。隕石か何かがドラゴンに衝突したのだろうか。いや、そうではなかった。

 まるで流星群の如く流れる爆発は、意図してドラゴンだけに狙いを定めていた。爆風に靡く銀髪を払って、余は兵士たちの方を振り向いた。


「誰か、あの爆発が何なのかを余に説明せよ」

「あ、その。勇者さん達が来てから、ドワーフ達がメノウさんの武器に興味を持ったみたいで。魔界の材料でも、似たようなものが作れないかなって試行錯誤しちゃった結果です」


 傍に居た兵士が伝える。なるほど、そういえばメノウの銃は魔界には存在しない武器だ。好奇心旺盛で物作り大好きなドワーフ達が見逃す筈ないか。

 ……この兵器の開発費がどれくらいの額になったのか、想像するだけで怖い。


「ま、まあ良い。許す。何はともあれ、ドラゴン相手にはこれ以上ない兵器のようだ。負傷し落ちて来たドラゴンから確実に仕留めよ。数が減れば、敵の親玉も姿を現そう」

「はっ!!」


 断続的に放たれる弾丸。しかし、ドラゴン達は攻撃の意志を貫いた。翼を貫かれ、墜落しても尚暴れることを止めなかった。尻尾で地面を叩き、兵士を薙ぐ。

 それでも、確実に数は減っている。


「ふむ。これは、余も負けていられんな」


 片足を軸に、大鎌を大きく振った。三日月型の刃は漆黒の鎌鼬を生み出し、空気を裂きながらドラゴン達を細切れにする。

 同時に、視界が大きく揺らいだ。


「くッ!?」

 

 反射的に身を翻し、余に牙を向けたドラゴンを仕留める。大鎌の血を振り払いながら、自分の身に起こっているに思わず苦笑を漏らす。

 ううむ、本当に風邪でも引いてしまったのか。昨日、オリガの部屋で毛布すら掛けずに寝てしまったからか。


「やれやれ、こんな時に体調不良とは。我ながらついていない……まあ良い、そなた達を撃退するまで保てば十分だ」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る