四話 さあ、戦おうか!
※
防御魔法を破壊しようと、攻撃を続けるドラゴン達。おぞましい光景だが、あたしはもちろん周りの兵士達が臆する様子はなかった。
「流石は魔王お抱えの兵士達ね。この数のドラゴンが相手でもビビらないなんて」
「当たり前だろう。我々全員は魔王を護る矛であり盾だ。陛下がやると言ったら、どんな相手でも付き従うだけだ。……でも、なんで僕まで」
はあ、と重々しいため息を吐くユウギリ。その点についてはご愁傷様としか言いようがない。
「シュリ……大丈夫かな」
距離で言うと、シュリは百メートルくらい先に居る。ここから見ても、風で美しい銀髪が揺らいでいるのがわかる。
様子が変だったけど、大丈夫かなぁ。あの大鎌を軽々と片手で肩にかけている様子からは、具合が悪そうだなんて少しも思えないが。
そんな心配を断ち切るように、空から『声』が降ってきた。
――愚かな魔王よ。争いを止め、平穏に牙を折った者共よ。世界は戦いを欲している、大地は血と慟哭を求めている。それが何故わからない――
「何これ! ドラゴンが喋ってるの!?」
あたしだけではなく、兵達の数人が動揺を露わにした。凄い、二次元でよく見た現象だが滅茶苦茶気持ち悪い!
シキも似たような感じだけど、相手が人の形をしていないからか違和感が半端ない!
「げ、今回のドラゴンは人語を扱うのか」
「喋ると何か違うの?」
「それだけ長く生きて、賢いということだ」
ユウギリの話によると、ドラゴンは人並みの知能を誇る生物であるが、言葉を解する程の個体は非常に珍しい。群れの長である個体は恐らく、百年以上生きている。
ドラゴンは生きれば生きる程力を増す。だから、これは難敵であることを思い知らせてくる牽制らしい。
――弱者を排除するのではなく、内包する群集に何の意味がある。なぜ、勇者を前に刃を収めた。力を追い求めなくて何が王か。理解出来ぬ。貴様らは、魔界を無意味に食い潰す害でしかない――
「そなた達とは、根本的な価値観が違う。魔族だろうが人間だろうが関係ない。人は他者を理解し、許容し、力を合わせ発展していくことが出来る。そしてそれは、時にそなた達が誇る力を遥かに凌駕するのだ」
シュリの声が聞こえる。皆が息を殺し、王の言葉を聞こうとしているのだ。しん、と静まり返る空気。
ドラゴンがくつくつと嗤う。
――愚かな魔王よ。かつて、多くの血が流れたことを忘れたか。ならば貴様に魔界の王を名乗る資格などない――
上空に亀裂が入る。防御魔法が弱まっているのだ。だが、慌てることはない。これはシュリがリンドウにあらかじめ指示していたことだ。
敢えて防御魔法を弱め、直接対決をする。
「やれやれ。ドラゴンは本当に好戦的で困る。だが、これで話し合いは決裂したと判断する。ならば、そなたらは余の敵だ。魔界の平穏を脅かすつもりなら、容赦はせぬ。死を覚悟している者だけ、かかってくるが良い!」
シュリの宣言で、戦いの火蓋が切られた。防御魔法が砕け散り、待ってましたと言わんばかりにドラゴン達が襲い掛かってくる。兵士達から猛々しい雄叫びが上がる。あたしも剣を抜いて、突っ込んできた敵を睨み付けた瞬間、
凄まじい爆音が、鼓膜を震わせ空を焼いた。
※
「……何だ、今のは」
我ながら素っ頓狂な声が出た。ドラゴンのブレスにしては一瞬で、魔法にしてはなんていうか。隕石か何かがドラゴンに衝突したのだろうか。いや、そうではなかった。
まるで流星群の如く流れる爆発は、意図してドラゴンだけに狙いを定めていた。爆風に靡く銀髪を払って、余は兵士たちの方を振り向いた。
「誰か、あの爆発が何なのかを余に説明せよ」
「あ、その。勇者さん達が来てから、ドワーフ達がメノウさんの武器に興味を持ったみたいで。魔界の材料でも、似たようなものが作れないかなって試行錯誤しちゃった結果です」
傍に居た兵士が伝える。なるほど、そういえばメノウの銃は魔界には存在しない武器だ。好奇心旺盛で物作り大好きなドワーフ達が見逃す筈ないか。
……この兵器の開発費がどれくらいの額になったのか、想像するだけで怖い。
「ま、まあ良い。許す。何はともあれ、ドラゴン相手にはこれ以上ない兵器のようだ。負傷し落ちて来たドラゴンから確実に仕留めよ。数が減れば、敵の親玉も姿を現そう」
「はっ!!」
断続的に放たれる弾丸。しかし、ドラゴン達は攻撃の意志を貫いた。翼を貫かれ、墜落しても尚暴れることを止めなかった。尻尾で地面を叩き、兵士を薙ぐ。
それでも、確実に数は減っている。
「ふむ。これは、余も負けていられんな」
片足を軸に、大鎌を大きく振った。三日月型の刃は漆黒の鎌鼬を生み出し、空気を裂きながらドラゴン達を細切れにする。
同時に、視界が大きく揺らいだ。
「くッ!?」
反射的に身を翻し、余に牙を向けたドラゴンを仕留める。大鎌の血を振り払いながら、自分の身に起こっている異変に思わず苦笑を漏らす。
ううむ、本当に風邪でも引いてしまったのか。昨日、オリガの部屋で毛布すら掛けずに寝てしまったからか。
「やれやれ、こんな時に体調不良とは。我ながらついていない……まあ良い、そなた達を撃退するまで保てば十分だ」
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