六話 やだー、これ好感度爆上がりじゃんよ!


「わーお、蛇さん起きちゃったわ。ところでさあ、この蛇さんって火を吹いたり毒を吐いたりする?」

「それで済んだら軍人は職を失うな」


 巨大な牙が襲い掛かってくる。あたしやリンドウを一瞬で丸呑みにしてしまう勢いだ。お腹空いてるの? それとも三時のおやつ?

 大蛇の猛攻を互いに左右に跳んで避ける。慌ててハープを掻き鳴らしてみるが、再び大蛇が眠る様子はない。


「な、なんで効かないの!? 状態異常耐性ついた?」

「興奮状態の相手には効きにくいんだ! とにかく、祭壇が壊されるのだけはマズい。復旧にどれだけの時間がかかるか」

「そんなこと言われてもおぉ!」


 剣を抜いて、何とか大蛇の意識を祭壇からあたしの方へと向けさせる。ううむ、人だったら急所を突いて気を失わせることも出来るのだが。

 蛇の急所って、どこですか? そもそもどこからどこまでが頭なの!?


「うわわ!」


 巨大な尻尾が振り下ろされる。咄嗟にかわすも、犠牲になった岩が一瞬で粉々になったのを見ると流石に血の気が引く。


「将軍さまあぁ! これどうにかしてよ!」

「お前こそどうにかしろ、勇者だろ」

「そ、そんなこと言ったって」


 仕方がない。大蛇との距離を詰め、剣の柄頭や腹で打撃を与えてみる。だが、鱗が硬いせいか確実なダメージにはならない。

 手加減しているとはいえ、聖剣の攻撃が入らないなんて! 詰んだのでは!?


「むきいいぃ!! こんな高難易度クエスト聞いてない! 追加報酬を希望する! シュリとの添い寝イベントをくださいっ」

「……お前、どうして大蛇を仕留めようとしない?」

「ああん?」


 祭壇を護ることに専念していたのだろう。リンドウが信じられないものを見るかのように、あたしを見つめていた。

 仕留める? 何を馬鹿な。


「あたしは、魔族だろうと魔物だろうと不必要な殺しはしない。シュリと約束したからね! テリトリーに入ったのはあたし達なんだから、相手を傷付ける道理はないわ!」


 相手から襲ってきたのならまだしも、大蛇の眠りを妨げたのは自分達だ。それなのに傷付けたり、命を奪うことはしたくない。


「……ふっ、そうか。確かに、陛下の言った通りだった」

「って、何笑ってんのよ!」


 あれ、そういえばリンドウが笑ったのって初めてみたような。思わずぽかんとしていると、リンドウが懐から数枚のカードを取り出した。

 これまでは白いカードだったが、今度は見慣れない黒いカードだ。


「勇者を傍で好き勝手にさせておくなんて、陛下も何を考えているのかと思ったが。これなら確かに、放っておいても問題はなさそうだな」

「え、もしかして試されてた?」

「言っただろう。陛下を護ることが、俺の役目だと」


 放り投げられたカードから、黒い鎖が吐き出され大蛇の身体に絡みつく。ぎゃっ、と悲鳴を上げるも、拘束されるだけで命を奪うようなものではないらしい。


「オリガ、ハープを弾け!」

「ふえっ!? う、うん!」


 突然名前を呼ばれて我に返る。相変わらず不協和音だが、とりあえず大人しくしてほしいというハートは伝わったらしい。

 次第に大蛇が抵抗を止めて、身体を地面に伏せさせて静かに眠ってしまった。完全に動きを止めたところを見計らって、リンドウが鎖を消した。


「わあ……すご。やっぱり魔法って凄い」

「ちゃんと弾き続けてろよ。出来るだけ早く修復を終わらせるから」


 ふん、と鼻を鳴らして。あたしに背を向けて、再び祭壇へと向かうリンドウ。ハープを弾きつつ、大蛇を起こさないように足を忍ばせながら、彼の方へと近づく。


「……ねえ、さっきの黒いカードは何?」

「使用用途で色を分けているだけだ。白は雑務、黒は戦闘用だ。黒カードはもう無いから、絶対に大蛇を起こすなよ」

「ふうん、わかった。ついでに、さっき初めて名前を呼んでくれたよね? 聞き間違いじゃないよね?」

「い、良いだろ別に。気が散る、話しかけるな」


 耳まで赤くなったリンドウに、ニヤニヤ笑いが止められなくて。結局、祭壇の宝玉が輝きを取り戻したのは夕暮れ時をすっかり過ぎた頃だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る