遭遇

 起床後シェルターから出てみると昨日の吹雪とは真逆に視界は澄み渡っていた。視界が確保されているだけで気分がいい。昨日と変わらず息を思いきり吸うと肺が凍りそうなほどの寒さだが。


「…マインも寝相良くないですね」


ミルが少し跳ねた髪の毛を直しながらシェルターから這い出てくる。目の下には少しクマが残っている。氷のシェルターでは流石に体力を完全回復できないらしい。それは俺も然り。早いところどこか国などを見つけて宿を取るべきだ。


前日つけたの氷の上のツルハシの跡を確認し、今日進むべき方向を確認する。この作業を疎かにすることは何の目印のない氷の上では危険だ。


 マントを着て、フードを被り防寒対策。ツルハシを腰につけて守護者対策。両方の準備を2人で確認し、再び歩き出す。


 時折遠くの方にどこかの国の戦闘をしたであろう守護者が氷の上を歩いているのを見かけた。おそらくどこの国でも戦闘後は氷の上に離すのがセオリーなようだ。


「守護者は…手を出してこない限りノータッチだよな」


「体力消耗は避けたいですからね…まぁ襲ってきたら自衛しますが」


数時間もの歩行は足にくる。氷の上なら尚更だ。スケートリンクのような地面なので特殊な靴を履いていても気を張っていなければつるりと滑ることになる。


「吹雪いてきたな………」


「今日はもうシェルターつくります?」


「いや…もうちょい進め」


 吹雪に紛れて突如金属音が鳴り響いた。機械音とも取れるその音は吹雪の中でも俺たちの意識を裂くのに十分な音量を持っている。それに加えてだんだんとこちらに近づいてきているようだ。俺とミルはツルハシを構え、その音の状態に備える。


 今度は吹雪に紛れて質量をもつ何かが真横を通り過ぎた。大きさは電子レンジほどだ。


「………攻撃をくらってる?」


 ガシャンという足音、前方から漂うオイルの匂い、吹雪のおかげで正体がわからず俺とミルは背中合わせに警戒を強めた。


「………来る」


反応できたのが不思議なほど突飛に鋭い牙が俺の目の前を通り過ぎた。ミルと共にそのばから下がる。吹雪の白い空気を切り裂くように続いて鉄でできた爪が襲いかかる。


 俺とミルが相手の正体を理解するのに時間は掛からなかった。氷の中を自由に移動し、資源類を体に纏う。結果電化製品、資源を鎧のように扱いまた資源を求めて動く守護者。


「ブリザードドライ!やたらめったら資源くっつけるのが好きなやつだ!」


応戦しようにもここは氷の上だ。ブリザードドライの固く重い一撃を受け切るようなことはできない。撤退あるのみ。


「ミル頼んだ!」


 ミルの突風により吹雪が除かれクリアな空間が取り戻される。それと同時に氷を抉るような突風があたりに巻き散らされた。


 そこからは一目散に逃げた。ブリザードドライの姿が見えなくなる頃には俺もミルも白い息を吐き肩で息をしていた。


「はぁ…はぁ…見た?」


「はい………ブリザードドライにくっついてた資源が多すぎる…相当装甲が厚いですよ…」


機械獣ともいわれるブリザードドライは本体は氷の中を移動するスライムのような守護者だ。しかし氷の中の資源を纏い、強くなることを繰り返す。人里や国に鎧を増やしにやってくることもしばしばだ。


 息が整った俺たちの前にはまた驚くべきものが飛び込んできた。


 四角い建物だ。しかし一辺が長すぎる。端っこが見えないほどの大きさの建物だ。倉庫と言ってもいいかもしれない。氷のなかにわずかな面積の地面とともに立っているその建物は老朽化が少し進んでいるようだった。盆地のようにくりぬかれた氷にたったそれは俺たちの興味を引く。



「何だ…何の施設だ?」

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