ドレス
なんとか状況を整理すると戦いの後流氷は旅に戻った組とツドラルさんやツララ塔に雇われた組に分かれたらしい。確かに人不足を解決するのには良い。
「コーヒー一つ」
「へいお待ち!!」
コーヒーを出す感じではないが出されたカップもテーブルも綺麗で店の外見以外は完璧に見える。ミルクはないようなので砂糖を2、3個入れて飲んでいるとだんだんと驚きが静まってくる。
カウンターが野晒しだから寒いがコーヒーで温まりつつミルにパーティーについて聞くことにした。
「パーティーってどんなことすんだ?」
「ノーマルなやつですよ。料理でてきて…立食のやつです。戦闘の表彰とかもあるっぽいですが」
「服はこれで良いのか?俺採掘の時の作業着しかないけど」
「良いんじゃないんですか?私だって…」
「ダメに決まってるでしょー!」
不意に否定の声が聞こえてきたのでそちらを振り向くとまんとをきたクリヤと手を振るノルダが目に入る。
「ノルダ、クリヤ!」
2人はちゃんとしたパーティー用の格好をしているようで少し寒そうだ。氷点下のなかスーツとドレスはマントなしではきついだろう。ツララ塔は暖房が効いているが入れるまでは着替えないほうがよさそうだ。
「この服じゃダメなのか?」
「マインのはグレンさんから預かってるよ、はい」
「まじか、ありがとうノルダ!」
作業着よりも薄手で色の暗いスーツのような服を受け取る。やはり軽い。正装用が軽いと感じるということは作業着はやはり重装備なのだ。
クリヤはカバンをゴソゴソとして何かを引っ張り出す。よくみると2人がマントの下に来ているような簡単なドレスだ。
「はいこれはミルの」
「私の?良いですよ気を使わなくて」
「じゃなくて、みんな着てるの!いやまぁ女性もスーツの人いるけどミルはこれが似合うと思う!」
ドレスの肩の部分を持ってクリヤはミルとの距離をジリジリと詰めていく。ミルはカフェのカウンターに座っているので逃げ場がないようだ。
「ほーれこれを着ろぉ…」
「い、良いですそんな綺麗なの…!」
ミルはカウンターにバンと金貨をおいてからカフェラテを一息に飲み干し、すたこらさっさと走り出した。
残された俺たちはポカンとしていた。ミルはそんなに作業着がいいのだろうか。店の奥から戻ってきたポーンはカウンターに置かれた金貨をふしぎそうに見つめる。
「む?カフェラテに金貨を?お釣りがすごいことになるぞ?」
「お、俺が渡しときます…俺もごちそうさまでした」
支払いを済ませカウンターから離れるとしばらく沈黙が続いた。
「ど、どうしよう。ミルにこれ渡したいのに…」
「よし!俺が追いかけるよ。このドレスだな?でも本当に嫌がったら作業着って事で!」
「わかった。マインのスーツは預かっとく!パーティーで!」
「ごめん、ありがとうノルダ!」
ノルダとクリヤに礼をしてから俺はミルの走り出した方向に向かった。パーティーに向かう氷鉱夫が大勢いて走りにくいし、ミルの行きそうなところもわからない。
「ミル!」
ミルの後ろ姿が見えると思ったらまた見えなくなる。ミルの身のこなしは並大抵のものではない。人混みを難なく抜けていく。
「待ってくれ!」
ツルハシがないので推進力の発動もできないし、そもそも持っていても街中じゃ使うべきではない。
そんなことを考えながら走っているとミルの背が人混みの向こうに見える。再開店セールの洋服屋のむこうだ。セールで洋服屋の前には人が集まり、まるで人の壁だ。
「とりあえず話をしようぜ!ミル!」
氷鉱夫体術壁走り。靴を濡らし、凍ってくっつくのと脚力を利用し壁をかける。洋服屋の看板近くのレンガをかけあがり真下に人混みを見ながらミルを追った。店の前の人はセールに夢中で数人しか俺に気付いていないようだ。
視界が急に真横になって混乱しそうになるがミルをじっと見つめたまま2、3歩足を動かす。バランスを崩しそうになりながら着地するとようやくミルの腕を掴んだ。いきなり引っ張ったのでミルは後ろに倒れそうになった。
「…そ、そんなに…ドレスいやなのか?」
「はぁ…はぁ…べ、別にそういうことじゃなく!着たことがないんです!なんか…こう…似合わないかもしれない…ですし」
語末に連れてミルの声が小さくなり、俯きがちになっていく。俺はミルに重ねるようにドレスを広げてみる。
「に、似合うよ!チャレンジしようぜ!」
「チャレンジ?」
「そうだよ!ミルが新しい技を身につけた時だってチャレンジしたから強くなったんだろ?」
ミルは少し考えこんだ。なんの葛藤なのかはわからないが、未経験への緊張だとしたらチャレンジで克服できるかもしれない。
しばらくしてミルはツカツカと近づいてきて俺からドレスを受け取った。
「そんなに派手じゃないので………頑張ってみます」
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