パワーアップ

翌朝ガバッと起き上がると着替えを済ませたジーン先輩が立っていた。ジーン先輩はいつも通勤が早いがそもそも早起きなのだな、と思いつつ俺も素早く準備を済ませて控え室の扉を開けた。冷風が完全に俺の眠気を飛ばしてくれる。


「頑張ってくぞ!ね、ジーン先輩!」


「そうだね、掘り出しは午前、午後はたっぷり特訓だ」


採掘は氷鉱夫の重要な仕事の一つだ。資源の乏しい社会で氷鉱夫が特訓のために採掘を止めればそれこそ危機だ。ツルハシを振るう、その動作は氷鉱夫の仕事全てにコンバートできる。戦闘もしかりだ。


 目の前の冷蔵庫を取り出す頃にはジーン先輩も発電機を氷の中から取り出していた。二人でそれを配達ボックスに運ぶと先輩と顔を見合わせてこくりとうなずく。



 昼を食ったら特訓と決めていが、それにはまず今の自分の力を知らなくてはいけない。昼の片付けをして控え室でそれを考える。俺のツルハシでいろいろな鉱技を使うことができるが、威力が足りない。それが問題だ。だからこの前のように倒しきれず戦線を突破されたのかもしれない。


ツルハシを持って見つめてみると黒くシャープな見た目だ。氷鉱夫の戦闘デビューでもらったツルハシ、確かカストルフさんがいうにはフォアリベラルは初心者にぴったりらしい。しかし今トップクラスに追いつこうとしているからそれに満足してはいけない。だからといって今更ツルハシを買い換える気もない。


そんなことを考えていると昼を食い終わったジーン先輩がツルハシを持って控え室から出ていった。俺の悩みを聞いてもらうためそれについていく。


「先輩…俺のツルハシ…威力増すためにどうすればいいですかね…」


ツルハシを長く持つ、氷鉱夫体術と併用する。いろいろ考えたがそもそもの威力を増す方が効率がいい。


「マイン…ジャス地区第3…俺たちの職場でさ、その年のルーキーに毎年違うツルハシは渡してないらしいよ?」

先輩は意味ありげにニヒッと笑う。普段クールだから珍しい。だからこそ先輩の言葉は返って重要に聞こえる。


「え?それって…」


 ジャス地区の先輩のツルハシは本来同じもの?ということか。しかしジーン先輩のツルハシは白い。カストルフさんのは装飾が付いていた。グレンさんのはそもそもツルハシが違うが、その他の先輩もジャス地区第3のツルハシは共通というのならなぜそれぞれ鉱技が違い、見た目も違うのか。そこまで考えて俺はハッとした。フォアリベラルの鉱技…課題解決能力だ。


 俺はツルハシを縦に持った。ダメ元で話しかけてみる。ツルハシは氷鉱夫としてやっていく上での相棒だから変ではないだろう。


「えーと…いつもありがとう、フォアリベラル。新しい砥石とか必要なら言ってくれ…」


ジーン先輩は特訓の手を止めてこちらを見ている。先輩の顔からは俺がやってることはどう見えているだろうか。懐かしい、俺もやったな、そんなことを考えていれば嬉しい。


「フォアリベラルのおかげですごい助かってる…電撃出るし、ひかるし、硬くなるし、音を響かせられるし…便利だ…でも一つに絞らせてくれ…そしてその分そこに威力を集中したい…」


 先輩たちが俺と同じツルハシを使ってなぜ、課題解決能力を使用してないのか分かった。先輩もなにかの壁に当たったのだ。そして一つの技に、特化した技になったということだ。


 

ジーン先輩は追撃を求めたのだろうか、くっつく衝撃の技、ガラン、グランは防御力、マリーナ姐さんはリーチ、カストルフさんは継戦能力を求めたのか、いつでも全力の攻撃と同じ威力を出せる技だ。


どこまでも初心者にぴったりなツルハシだ。初心者は自ずと強くなりたがる。そして一つに技を絞り威力を上げる、そこまで考慮してくれているツルハシということだろう。


 おそらく俺の威力を上げたい、その課題も解決してくれるのだ。


フォアリベラルは俺の言葉を聞いて震えだした。多分ここで俺が心を決めれば技は何か一つに絞られる。今まで使ったものか、新しく俺に合うものかわからないが。


そしてそこからは自身の力で応用しなくてはいけない。便利すぎる技から卒業して自分で工夫して戦っていくのだ。


「パワーとスピードをお願いします」

ツルハシの震えは止まり、フォアリベラルの黒色は若干グレーになった。台風のような、竜巻のような色だ。


「君の成長の証だマイン」


じっとそれを見つめているとジーン先輩が沈黙をやぶって話しかけてきた。


「俺の?ツルハシじゃないんですか?」


「君とツルハシの。かな?ツルハシはもちろんパワーアップした。だけどそれを引き起こしたのは君の自分で工夫して戦うという覚悟と自分に今必要なものがわかるようになった成長さ」


ジーン先輩はツルハシをあげてみせる。先輩も同じようなことをやったらしい。俺はグレーのツルハシをそこで振ってみた。


重さもリーチも変わってないのは嬉しいことだ。変わったのはおそらく技のみだ。


「打ってみな…鉱技」


昼のの明るい日なたにたって氷壁に向かい合った。いつもの感覚で鉱技を発動する。すると空気漏れのような音がツルハシの後方の刃から聞こえてくる。


俺はツルハシを半月を描いて振り抜いた。ただ振り抜いたのではなく氷の壁の中に振り抜いたのだ。氷の中にすっと入って削ってそのまま氷の壁から現れた。


俺はびっくりしてツルハシを落としてしまった。あまりの抵抗のなさに驚いた。そしておそらくだが鉱技がわかった。


「推進力…!」






 

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