アイスバーグフライ 前編
「グレンさん!早く!」
「筋肉痛治った途端元気になったな」
急ぐのには理由がある。コネクト制度が適用された討伐に遅れることは他の氷鉱夫に迷惑をかけることになるからだ。
「平気だよ、コンプス地区のやつは俺の知り合
いだから」
だからといって遅れて良いわけではないがその言葉に俺は食いついた。
「グレンさんの?どんな人なんだ⁈」
結局グレンの話が聞きたくて歩行スピードが一緒になった。
「達人だな。ツルハシの扱いは国内トップクラス、冷静沈着…あげたらきりがねぇ」
カストルフによるとグレンもかなりの上級者とのこと、そのグレンがベタ褒めとはいったいどんな人なのだろう。
「そんな人のところにヘルプ行くのか?」
氷鉱夫吹っ飛ばし系女子のミルによれば弱いからヘルプが必要ということらしいが、これからヘルプに行くのはその達人のところというのは妙だ。強いならそこの採掘氷場だけでできるはずだ。
「今回は初めてだからお試しだろ、トップクラス2人とルーキー3人。バランスはいい」
「トップクラス2人って誰だよ」
「さっき言ったやつと…」
「と?」
「俺」
自分で言うのか。そんなツッコミを入れそうになったが、思い留まった。それは目的地が見えてきたからだ。コンプス地区は産業地区で、工場が所狭しと並んでいる。氷に囲まれた社会なので産業の発展は重要らしく、区全体が保護されているらしい。
「あっ、あそこじゃないのか?」
遠くに大きな看板が見える。コンプス地区第二と書かれている。今回の仕事場だ。入り口までくると俺と同い年ぐらいの男が待っている。緑色の髪の毛で、少し長めだ。腰につけたツルハシは髪の毛と同じく緑色だ。目がまん丸で人当たりが良さそうだ。
ニコニコとしたその人物は明るく話しかけてきた。
「ようこそ!コンプス地区第二へ!僕はノルダ、今日一日お世話になります!」
良い人だ。話す様子からそう感じた。初めて会う相手にもニコッとして目を見て話す。なかなか出来ないことだ。
「俺はマインです!」
「ジャス地区第3氷鉱夫のグレン、お見知り置きを」
ノルダの案内に従って採掘氷場へと入ると自分の職場とは随分違っていた。かなり片付いている。ジャス地区第3だったらカストルフ以外片付けるやつがいないので、毎日一つは誰かの忘れ物が落ちたりしている。
それにやたら布が置いてある。ノルダによるとそれは産業地区コンプスならではの理由があった。
工場のスモッグなどがたまにくることがあり、作業中は近くの布で口を覆うらしい。それと振ってくるホコリを定期的に拭わないと氷の中の製品が見えなくなるという。
「随分俺たちのとこと違うよ」
「へぇ、マインのところはどんななの?」
「ここより寒いな。あと先輩がストイックすぎてちょっと疲れちまう」
ノルダがそれを聞いて笑うのを見てこっちまで笑いそうになる。会ったばかりだがノルダとはなぜか話しやすい。物腰柔らかだがハキハキと喋っているからだろうか
「ふふふ、こっちの先輩もかなりストイックだよ、ツドラルさんって言うんだけど…」
「あぁ、そのひとはグレンさんが友達って言ってたぜ!」
「本当⁈なんも言ってたなかったよ、ツドラルさん…」
ノルダはキョロキョロとあたりを見渡す。俺も見渡してみるが特に人は見当たらない。おかしいな、といってノルダが探しに行くが見つからないようだ。
「ツドラルさーん!」
「ここだ、ノルダ。カフェリア地区からの客人を迎えていた」
現れた男はキリッとした目で髭を蓄えた男だ。背はグレンと同じぐらいで落ち着いた雰囲気だ。
ノルダとは随分イメージが違う。
「よろしくお願いします!マインです!」
「うむ…君がグレンの後輩か…よろしく頼むのである」
「はい!」
そういうと、次に目に入ったのは衝撃的な人物だ。先日自分を突風で飛ばした本人が立っている。
「カフェリア地区第1からコネクト制度により派遣されました、ミルと申します」
「あっ!よくもこの前吹っ飛ばしてくれたな!」
つい乱暴な言葉になった。ナンバーワンルーキーへと対抗心が自然と出てしまった。あとは単純に悔しかったからだ。
「別に私が考えたわけではありません、怪我をしないように威力は抑えました」
抑えた?それであの威力か…また距離を感じた。なら今回はこのミル、ツドラル、ノルダからたくさん学んでさらなるレベルアップをするしかない。
「そうか…俺はマイン…俺もすげぇルーキーて呼ばれるように頑張るから見といてくれよ!」
「…わかりました、頼りにしています」
ミルはそういうと向きを変えてノルダやグレンさんに挨拶をしに行ったようだ。ミルは印象としては硬いイメージがあった。淡々としていて仕事人という感じだ。
一通り顔合わせが終わったので控え室に入り、討伐の確認をする。ツドラルさんがリーダーを務めるようだ。
「では、コネクト制度テスト兼討伐会議を始める」
「よろしくお願いします!」
「頼むぜ」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
ツドラルはホワイトボードを引っ張り出してきてツドラル、グレン、ミル、マイン、ノルダと名前を書いていった。ツドラルはグレンはを指差す。
「鉱技を把握する必要があるグレンから言っていくのだ」
「俺か?鉱技は豪炎衝、火の近接だ」
「ノルダ、鉱技を皆さんに説明するのだ」
「はい!斬撃です!斬撃を飛ばせもしますがまだ2メートルぐらいです…」
「ミル…教えてくれ」
「私の鉱技はエネルギーと引き換えにパワーを得ます。先日吹っ飛ばさせていただいたのは2回ほど使えます」
実は先日から思っていたが、やたらとミルが細いわけがわかった気がした。同化ツルハシにエネルギーを渡していたら無理もないだろう。あと、グレンさんと同格のツドラルさんなら多分突風では飛ばされてない気もする。おっと次は自分の番だ。
「マイン…鉱技は?」
「課題解決能力…です!戦ってる中で課題が出た時俺がちゃんとしたイメージを持てばツルハシの範疇で再現できます!」
最後はツドラルは自分のツルハシを取り上げて見せた。普通のツルハシのように見える。
「降る速度の上昇…以上」
グレンが褒めていたわりにシンプルな気がした。だがオーラが他とは違う感じがしているから相当強いのだろう。
「では、作戦を説明する。グレン、ノルダでとりあえずメインアタックだ。火と斬撃にはぴったりだ」
「おっ、わかってんじゃねぇの、ツドラル」
「次にマインとミル、前衛のサポートだ。ミルは遠距離で突風攻撃、マインは3人の隙を課題解決能力でカバー」
「はい!」
「承知しました」
この中で唯一ツドラルにフランクに絡めるグレンが指摘した。ツドラルの役割についてだ。
「さらに4人のカバーをする、他に質問は?」
自分としてはツドラルが戦うのを見たかったが、我慢だ。前衛のノルダや同じ役割のミルから何か学べるかもしれない。
「守護者はアイスバーグフライと言う。飛ぶことと氷柱を落としてくることを頭に入れておくのだ。こちらの距離で戦わねばかなり不利である」
となると自分とミルのサポートとは飛んでいる相手を地面に近づけさせるということだ。ノルダとグレンが届かないところから彼らのレンジへ、そう言ったサポートた。
「10分後、氷の前へ集合…」
ツドラルはそういうと出て行ってしまった。冷たいわけではないだろうが、ベテランの性か淡々としすぎている。
「…よし!やってやるぞ!」
「マイン、気合入ってるね。何かあるの?」
ノルダ、よくぞ聞いてくれたと言う感じだ。
「俺は、もっと上手くなりたいんだ、採掘も討伐も!実践は気合入れてやらねぇとな、学べるもんも学べなくなっちまう」
「いいねぇ…僕も頑張るよ!ミルさんも頑張ろうね!」
ミルは装備の最終確認をしているようで、小さくハイと答えただけだった。しかしノルダはその答えで満足したようだ。
「よし行こう、マイン!ツドラルさんとグレンさんが待ってるよ」
作戦を立てていた控え室から出ると氷壁の中に大きな鳥のような守護者が見える。ゴツゴツとした胴体、大きな翼、グンジョウオオタテガミとはまた違った迫力だ。
「ノルダ、お前のことちゃんと援護するからな!」
「よろしくっ!」
そういうと前衛のノルダはグレンの元へかけて行った。俺はというとさっきから無愛想というか静かなミルと同じ場所に立った。
グレンとノルダをいつでもサポートできる位置だ。ミルは深呼吸をしている、No. 1ルーキーと言えども緊張はするのだろう。
次に氷の方を見てみるとアイスバーグフライが氷の向こうから睨んでくるような気がする。だがびびるわけにはいかない。
「よっし!やるぞ!」
バシンと自分の頬を叩き、ツルハシを構えた。
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