白色透明

あさひA

6月

6月 転校と再会

「ふぅ、とりあえず寝床は確保っと」


 引っ越し業者の運んでくれた段ボールも必要なものもおおかた開封し帰ってきた部屋はようやく部屋らしい体裁が整い、人心地ついた。


 人心地ついたら、ふと思い出したように小腹がすいてきた、スマホの時計を見ると時刻は午後1時30分、お昼時にはちょうどいい時間帯だ。


さて結月のほうはどうなっているかな。


「うぇ~ん、おにぃちっとも片付け終わらないよ~!」


 自分の部屋を片付けていたはずの結月は、情けない顔を晒しながら俺の部屋に助けを求めてきた。


 このダメ妹は、九条 結月くじょう ゆづき俺の妹だ。家事も料理もしようとしないいわゆる干物のような女の子である。


「うわぁ~おにぃの部屋もうこんなに片付いてる、どんな魔法使ったの?」


「どんな魔法も使ってないよ」


 そんな便利な魔法があるなら是非ともご教授願いたい、どっか怪しげな森にいるおばあさんに聞けばいいのかね。


「そもそも俺の段ボール結月の半分くらいだったからな」


 ここに帰ってくる際、荷物をまとめているとき必要ないものはすべて処分したのだ、もう読まないであろう漫画や雑誌、参考書、昔の教科書や子供のころのオモチャなどはリサイクルショップに売り飛ばした。よくわからないトーテムポールや置物などは容赦なく捨てた。


「ねぇ、おにぃこんなに部屋片付いてるならさぁ、あたしの部屋も手伝ってよ~」


「秘技、脳天チョップ!!」


 俺は顔の前で手を合わせ、上目遣いでおねだりしている結月の頭にチョップを食らわせた。


「痛い!か弱い乙女に手を挙げるとは、それが男のしていいことなのか?」


 思いっきり手加減してやったのにひどい言われ様だな。俺が本気を出したら大理石も真っ二つだぞ!もちろん嘘だけど。


「まず、一人前の乙女と言いたいのなら洗濯・風呂掃除・料理すべて俺より女子力上げてから言えよ。な?」


「それはだってほらおにぃのがさ年上じゃんか」


 確かに年上だが俺と結月は一つしか変わらないのに、なんて根性のない奴だ。


「じゃあ結月は一年前の俺の女子力に勝てるか?」

「無理!無理です!」


 仮にも若き乙女しかも高校一年生の結月は、あっさりと敗北を認めた。


「お腹が減ったよ~、お掃除続けられないよ~、出前でも頼もうよ~」


「出前は高いだろう?カップ麺で我慢しろ」


 月々俺たちが使えるお金の金額は決まっているんだ、そんなにポンポン使っていたらすぐ破損してしまう。


「帰ってきて最初のご飯がカップ麺は嫌だよ」


 相変わらずわがままな奴だ、自由奔放さにいつもあきれているが、今回のは一理あるなとは不覚にも思ってしまったのは置いておこう。


「この変だとあの小道の先のコンビニくらいだけど、それで我慢してくれるか。唐揚げ買ってきてやるから」


「うむ、仕方がない、お肉マシマシタルタルマシマシでお願いします!!」


自分で乙女とか言っておいて、注文してくる物は全然乙女らしくないんだな。


俺はちゃんと掃除しておけよとだけ結月に伝え家の近くにあるコンビニへ足を運んだ。


何処か懐かしい街の風景、当たり前だ元々ここに住んでいたんだから。などと自分にツッコミを入れながら歩いていると、スマホの通知がなった。


 相手は両親だった、肝心の内容はというと、


『パパとオーストラリアで楽しんでまーす!!もう一人弟か妹ができちゃったらごめんね!!』


 などというとてつもなくファンキーなメールを息子に平然と送ってくる親の心境を知りたい。


なんだかんだ歩いて行き、コンビニの前。


「(ん?)」


 コンビニの店内に入ろうとしたガラス越しに、買い物を終えて店外に出ようとしている女の子の姿。

 電車と同様出る人優先だ、俺はドアから少し離れた横のところに待機。


「ありがとうございましたー」


 コンビニ店員の元気な声とともにドアが開き女の子が出てくる。


軽く会釈を交わし店内に入る。


「えっ!?」


 さーて、結月のは決まっているけど自分のは何買おうかな……


「かずくん?……かずくんだよね?!」


「へぇ?」


 不意を突くように彼女の口から出たのは、実に懐かしい数年ぶりの俺の呼び名。


「ひ、人違いじゃないよね!九条 一馬くじょう かずま君だよね!?」


「あ……うん、俺は九条……一馬…だけど」


 大きな目がキラキラと輝いているのは潤んでいるからだ。


 こんな美少女俺の知り合いにいたか?女の子の友達なんて片手で数える程度のはずだが……


「私…うぅんと、覚えているかわからないけど、私、美緒みおです!」


 美緒?その名前は確か面影が……


「澪……も、もしかして、みーちゃん?」


「うん、みーちゃん!近衛 美緒このえ みお!久しぶりだねかずくん!」


 数年ぶりのコンビニ前での再開だってのに見目麗しい変貌を遂げた幼馴染は、それなりの成長を遂げたはずのおれを簡単に見破ったのである。



「―――ってことがあってさ、いやぁ偶然ってあるもんだな」


「はーーーーーいーーーーーー??????」


 コンビニで買ってきた弁当とからあげちゃんを食べている時のこと。


「うわっ!ばっちい!口に唐揚げ入れたまま叫ぶな!」


 結月の口に入っていた唐揚げの破片がショットガンのように発射されてきた。


「叫びたくもなーりーまーすー」


 結月は何かを訴えたいようだが、悪いが俺には何が何だかさっぱりわからない。


「なんで、なんでおにぃはお弁当とからあげちゃんだけ買ってのこのこ帰ってきたのよさ!運命的に再開した女の子に『よっ、久しぶり~』だけで済ませるなんて、バカなの、アホな――むぎゅぎぎぎ」


 結月のほっぺを鷲掴みにし、バカだの、アホだの良く喋る口を塞いでやる。


「いてて〜、だってみーちゃんなんでしょ?仲の良かった幼馴染の、募る話の一つや二つあるんじゃないの?」


「いやー、嬉しい再開とはいえコンビニの前で長々と喋っている訳にもいかないしな」


「そこはさ〜、近くの公園とか行ってそこのベンチとかさ 」


「じゃあー、温めてもらった唐揚げちゃんと弁当が冷めてもいいってことか?」


「それは……冷めない程度に」


なんて自分勝手なやつだ、とおもいながら俺は残っている弁当を食べ始める。


「んー!美味しかったーごちそうさまー。ねぇおにぃ今からみーちゃん家にのりこみにいこーよ」


 また何を言い出したかと思えば、なんてはた迷惑な思いつきであろう。周りの迷惑をこいつは考えたことがあるのかね?。


「今日はもう遅いんだし、明日でいいんじゃないか?明日学校あるんだし」


「それもそっか〜、じゃあ明日でもいいやあたしは夜まで部屋の掃除してるねー」


 そう言い放つと結月は勢いよくリビングのドアを開け放ち階段を駆け上がって行った。


 残された俺はと言うと特にすることもないので食べ終わったゴミを袋に詰め、燃えるゴミ用のゴミ箱にポイ!、割れ物注意と書かれたダンボールを開け、まだ置けていなかった食器を食器棚に並べることにした。



 食器詰めと風呂を済まして、ベットで寝転がりスマホをいじっていると隣の柚月の部屋からとてつもなく大きな笑い声が響いてきた。


  明日「起きれなくても知らないぞ」という思いを込め大きくおやすみを言うと布団を自分の上にかけ就寝の体制に着いた。


  明日から始まる新しい学校に期待感を感じながら結月の笑い声と共に就寝した。



「むにゃ……にゃはは~……んふふ~……」


 朝になり結月の部屋を開けると、猫の着ぐるみ服を着て可憐な乙女とは程遠いい体制で寝ている結月を発見する。


「はぁ~、おい結月起きろ」


「ん~まだ起きたくないよ~まぶしいよ~」


「そんなこと言ってないで今日から学校なんだから」


「うぅ……わかった起きる起きますよ」


 結月を起こした後はリビングに降りてベーコンと目玉焼きを焼いてトーストにのっけておく。まだ買い物に行っていないため今日の朝食は簡単なもので済ませる、惣菜物でないだけ健康的である。


「おはよ~おにぃ……」


「おう、朝食おいてあるからとっとと食べろよ」


 寝起きだからかフラフラしながら結月は自分の席について俺と一緒に朝食を食べ始める。

 お互いに朝食を食べ終わりその時刻は午前8時、今から行けば余裕で間に合う時間帯である。さすがに転校初日から遅刻はしたくないよね。


「よしそろそろ出るか」


「うん、いこいこ」


 家を出てはや20分、辺りにはもう登校している人はおらず俺たち二人だけが学校の校門の前にいる。


「おぉ~ここが私の新しい学校か~。んん?でもここ一度来たことあるような」


「うん、確かに一度来たことあるな、編入試験の時にな」


 結月が覚えていないのも無理はない、その時の結月はまるで死んだ魚のような目をしていて今にも死にそうな様子だったからな、参考書を片手に電車の中で英単語を口に出しながら覚えているのが今でも思い出せる。


「そうだっけ、まあそんなことは置いておいて早く職員室行こうよ」


 テンション高めの結月をよそ眼に職員室へと向かった。


 職員室に入り今日転校してくる予定のものだと伝えると中から俺達のクラスの担任であろう人がでてきた。


 それから俺達はそれぞれクラスに連れていかれホームルームが始まった。


「と、言うことで今日から転校してきた九条だ、みんななかよくな」


「えっと、九条 一馬くじょう かずま親の転勤でまたここに帰ってきました、知ってる人も知らない人もよろしくお願いします」


 先生の簡単な紹介の後で、俺も同様に簡単に自己紹介を済ました。


「かず〜ん!!」


聞いたことのある声がした。


「九条〜!!」


  聞いたことの無い声もした。


「九条の席は〜、この列の一番後ろだ」


 俺は先生の指さした席に座り、それと同時くらいにチャイムがなり朝のホームルームが終了した。

 ホームルーム終了後、クラスの男子女子が一斉に近寄ってきた。


「かずくん、久しぶりだね」


「みーちゃんも久しぶり、これからまたよろしくね」


 俺は久しぶりに会った幼馴染に普通の挨拶をしたつもりだったのだが、なぜだろう、周りの男子たちの目が異常に痛い。


「みーちゃんだと?、この学園のアイドルをみーちゃんだと?」


 そ、そんなにおかしいものか?幼馴染だから仕方ないのかな。ん~わからない。


「学園のアイドルを『みーちゃん』だなんて呼べるのはお前くらいだよ九条。いな、一馬!」


「ごめん、俺あなたがだれか全くわからないんだけど」


「え?本当に覚えてない?お別れ会の時にトーテムポール送ったやつ覚えてない?」


 トーテムポール……あ、思い出したあいつだお別れ会の時一人だけボロ泣きしていて最後にトーテムポール渡してきたやつ。名前までは思い出せないけど。


「お、思い出してくれたか、じゃあ改めて石山 柊いしやま しゅうだ、これからよろしくな」


「おう、これからもよろしくな」


 よく覚えてはいないが柊との再会を果たした、その時、近衛さんはというと……


「ねぇねぇ、九条君とどういう関係なの?仲良しみたいだけど」


「そうそう、気になりまくりだよ」


 近衛さんは、周りをクラスの女の子たちに取り囲まれて四方八方から質問を受けているようだ。


「え?!そんなどんな関係でもないよ、かずくんとはただの幼馴染だよ」


「まじ?!転校して九条君はまた帰ってきたんだよね?」


「運命の再開じゃん!!」


 近衛さんは回答に困ったのか愛想笑いだけしてアタフタして逃げるように俺のところに歩いてきた、なんか昔のままだな。


「なんか大変そうだったね」


「突然来た転校生に『かずくん』なんて言ってたらさすがに驚かれるよね、あはは~」


 やっぱりみーちゃんと話すのはほかの女の子と違って気を遣わずに話せる数少ない友達の一人だからとても楽だな、なんか懐かしいな。


「みお、彼と知り合いなの?」


「あ、サキちゃん、紹介するね、かず……九条 一馬くじょう かずまくん、わたしのご近所さんで、幼馴染なんだ」


九条 一馬くじょう かずまです。よろしく」


白川 沙希しらかわ さきです。よろしく、一応みおの友人をしているわ」


「い、一応って何?わたしたち友達だよね、ね?」


 近衛さんの友達の白川さんか、なんか少し警戒しているような視線だったな。


 自己紹介や転校生質問大会などいろいろ行われていて楽しかったのだが、チャイムが鳴り響き強制終了させられてしまった。


 午前の授業が終了し、昼休み。


 俺は、柊の案内で購買でいくつかパンを買いこみ、彼と一緒に校舎と校舎の間のベンチでランチをすることにした。


 ここでは、同じくベンチで昼を過ごす人もいれば、土にレジャーシートを引いて小学校の時の遠足のような感じで食べている人もいる。


「もしかして、ここで食べてるのってここに来る女の子見るためか?」


「無論だ、ここには1~3年生の女の子が集まる夢の場所なのだ」


 こいつはこういうやつだったんだな、友達になってすぐなんだが、楽しいような、突っ込み疲れしそうというか。


 などと考えつつも、柊と楽しく昼食を食べていると、


「あ~、かずくんだ~、お~い」


「ん?」


 なんか向こうのほうから、聞いたことのあるような声がしたような、手を振っているのはわかるがだれかわからない。


 その女性は駆け足で俺のところまで走ってきた、そんなことよりもなんだあのきょ……いや何でもない。


「ほら、やっぱりかずくんだ、も~なんで返事してくれなかったのよ~」


「えっと、もしかして『むぎねぇ』?かな」


「そ~だよ、久しぶりに名前呼ばれてむぎねぇはうれしいぞ~」


 えー?!あのむぎねぇこんなかわいくなるなんて、昔から男子の間で人気だったけど高校生になってよりきれいになったな。


「ほんと久しぶりだね」


「ひさしぶり~、元気にしてた?。隣の子はお友達?」


 いきなり自分のことを指摘されてビクッっとはねている。どうやらむぎねぇを目の前にして固まってしまったようだ。


「ど、ど、どうも俺、がずまくんのお友達の石山 柊いしやま しゅうです」


「うん~、よろしくね〜石原くん」


「はい!石山ですけどもうなんでもいいです!」


そこはなんでもいいはずないと思うんだけど、今にもとろけそうな柊の顔を見ると、これでもいいかなと思ってくる。


「うふふ、面白い友達だね~。あ、そろそろチャイムなっちゃうから、またね〜かずくん」


「うん、また今度結月と一緒に挨拶に行くね」


「わかった〜楽しみにしてるね~」


そういうと、むぎねぇは教室へと戻っていった、後ろから見ても凄い気品で、すれ違う男子全員が2度見している。


「むぎねぇ、ほんとに人気なんだな……」


「当たり前だろ、あの人はこの学園のマドンナ的存在だぞ?」


「そ、そうなのか?」


「あぁ、だから近衛姉妹と幼馴染の一馬はちょうラッキーってこと」


「お、俺的にはそんな自覚ないんだけどな……」


少し首を傾げて答える一馬に柊は「やれやれ……」と小さく溜息をつき呟いた。


「な、なんだよ」


「いや、なんでもないよ」


そう呟くと柊は残っているご飯を片付けて一馬と一緒に教室へ帰った。






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