勘違いじゃない①

 サイトウ・テクニクス絡みの騒動から数日経過した。私は相変わらず、毎朝金森くんと出会い、二人で一緒に渡部ご夫妻に突撃してじゃれつき、そして変わらない毎日を過ごしている。


 お昼時。今日も私達は、ランチの時間に二人で喫茶店ちょもらんまへとやってきた。店に入るなり、金森くんは写真が飾られた窓際の席へと直行し、私もそれについていく。一色さんが姿を見せなくなったから、気兼ねなしに好きな席へと座ることが出来るのが嬉しい。この席に直行したあたり、金森くんも本当はこの窓際の席が気に入っていたのかも。今まで一色さんがいたから、距離を置くために選んでなかったのかな?


 席についた私達に、ウェイトレスの奥さんがオーダーを取りにやってくる。いつものキラキラと輝く髪をなびかせて、奥さんは私達のオーダーを持ち帰った。程なくして出来上がったランチを持ってきてくれるのだが……


「はーい。んじゃクラブハウスサンドが……」

「私です」

「てことは、ミートソーススパゲティが……」

「僕です」

「フォーク、彼女の分も持ってこようか?」

「えっと……」

「はい。お願いします」

「え……」

「りょうかーい。んじゃちょっと待ってな〜……」


 とこんな具合で、オーダーを持ってきてくれるどころか余計な気まで回してくれるようになった。勘違いをしている……確実に……。


 でも、その勘違いも、なぜか悪い気はしない。


 金森くんと二人、声を揃えて『いただきます』。その後奥さんが持ってきてくれたフォークを使い、時々金森くんのスパゲティを横取りする。そして金森くんはそのお返しとばかりに、私のクラブハウスサンドを一切れ強奪していく……なんだか互いのメニューをシェアするのも、だいぶ自然になってしまったなぁ。互いに『もらっていい?』と口に出すこともしない。ただ『美味しい?』『うん』『よかった』と言葉をかわすだけだ。


 それもこれも、金森くんが悪い。最近になって奥さんは気を利かせて『彼氏の分の割り箸も持ってこようか?』とか『彼女の分のスプーンはどうする?』とか聞いてくるようになったけど、それに対していつもうろたえる私を置いておいて、『お願いします』て言っちゃうから。


 おかげで、最近はもうほとんど互いのメニューをはんぶんこするようになってしまった。今日にしても私のクラブハウスサンドの半分を金森くんが食べたし、彼のミートソーススパゲティだって、私が半分ぐらいは食べている。


 でも、そんな時間が、最近はとても楽しくて。


「? どうかした?」


 金森くんに声をかけられ、ハッとした。金森くんは今、私のお皿から強奪したサンドイッチを、今まさに口に入れようとしているところ。クラブハウスサンドはたいして熱いものではないから、金森くんも食べやすいんだろう。いつもに比べて、今日は悲鳴が少ない。


「ん? なにが?」

「なんか、ぽけーてしてた」

「そかな?」

「うん」


 金森くんに指摘され、私は窓の外を見た。今日はとてもいい天気。ブラインドが閉められているから決して眩しくはないが、外のお日様の光の暖かさは、私の身体にも伝わってくる。ぽかぽかと心地よく、気を抜けば眠ってしまいそうなほど、心地いい。


「……お日様があったかいから、ぽけーてしてたのかも」

「……そっか」

「うん」


 ……そういうことに、しておいて下さい。


 私は金森くんからせしめたスパゲティを口に運んだ。彼が頼んだスパゲティは、パスタの茹で具合も完璧でミートソースの味も完璧な、美味しくてどこか懐かしい、とても美味しいスパゲティだった。


「スパゲティ、美味しい?」

「うん」

「よかった」


 私の感想を聞いた金森くんは、ニコッと穏やかに微笑んだ。そんな彼の口の端っこには、相変わらずいつも通りミートソースがついていた。



 ランチが済んで事務所に戻った後は、私達は互いに別々の離れた席へと座り、仕事に勤しむ時間を過ごす。金森くんは私が愛する薫お姉さまの隣で。そして私は、ぐーたらで仕事をまったくしない渡部先輩の隣で。


「ぬぼー……」


 今日も渡部先輩は何も動こうとしない。聞けば、午前中の仕事で気力をすべて使い切ってしまったのだとか。瞳孔が開いた眼差しで天井を見つめ、時々思い出したようにディスプレイを見つめては、マウスをカチカチと鳴らす。……そしてまた瞳孔が自然と開いて、天井を再び見つめ始める。……この繰り返しだ。


 薫お姉さまと金森くんも以前と変わらない。互いにコミュニケーションを取り、二人で忙しそうに仕事に打ち込んでいる。


「金森くん、骨武者商事への見積もりを早くお願いします」

「今出来ました」

「pdfを先方に送って下さい。原本はすぐに郵送すると……」

「すでに送ってあります。係長もCCに入れておいたので確認お願いします」

「……分かりました。ではバイク便を……」

「手配しておきました。もうしばらくしたら集荷に来るはずです」

「……ありがとうございます」


 二人の仕事が一つ片付いたようだ。お昼休みが終わってからこっち、二人共ずっとバタバタしてたから、何か急ぎの仕事だったのかも。金森くんはいつもの仕事中の『金森千尋』のキリリとスマートな顔ではなく、とても清々しく微笑んでいた。薫お姉さまも、ひと仕事終えて気持ちよさそう。鼻だってぷくって膨らんでるし。


 ……そう。渡部先輩が言っていたように、サイトウ・テクニクスのあの騒動があったあとも、みんなはいつもと変わらない毎日を過ごしている。私以外の、みんなは。


 私は、以前と比べて、ほんの少しだけ変わった。


「……」


 以前の私は、社内報や社内壁新聞なんかを作りながら、ずっと薫お姉さまの姿を眺めていた。お姉さまが移動すればそれを目で追い、お姉さまの美しさに心を潤し、お姉さまの冷たくも美しいその眼差しに心を癒やされていた。


 でも、今の私の眼差しは、薫お姉さまよりも金森くんを多く捉えていた。


 今も私は社内節分大会のお知らせを作成しながら、その視界の片隅に金森くんと薫お姉さまを……いや、金森くんを捉えている。嬉しそうに笑顔でお姉さまと談笑する金森くんを見ていると、不思議と胸が温かい。


 視線を少しだけズラし、金森くんを見つめた。そんな私に気付いたのか、金森くんが私の方を見てニコリと微笑み、小さく手を挙げる。私も少しだけ微笑んで、彼の笑顔に応えた。金森くんはすぐに薫お姉さまとの仕事の話に戻った。


 そんな金森くんを眺めながら、思い出したことがあった。


――大切な人を目の前で嬲られて、黙っていられる僕じゃない


 あの日私は、金森くんに助けられた。薫お姉さまにはかばってくれたお礼を伝えたのだが、そういえば金森くんには、まだそのお礼をしていない。


 作成中の社内報に恵方巻きのイラストを挿入しながら考える。金森くんにあの時のお礼をしたいと思うのだが、彼はどんなものを喜んでくれるのだろうか……いや、彼が何を喜んでくれるのかは想像に難しくないのだけれど……


――金森くん……なんか、小娘に言われて晩飯を作りに来たんだけど……

――そ、そんな! 先輩が僕のために僕の家で晩ごはんを作ってくれるだなんて!?


 ……アホらし。即座に私は首をふる。真面目にお礼を考えているのに、こんな考えがすぐ浮かぶ辺り、私も金森くんの先輩ラブに毒されすぎだ。


 渡部先輩も渡部先輩だ。こんなイメージをすぐ思いついてしまうぐらい、先輩に威厳がないのがそもそも悪い。げんなりする気持ちを抱えながら、私は引き続き鬼のイラストを探すことに専念した。


 とはいえ、渡部先輩以外に金森くんが喜ぶものが何も思い浮かばないのも事実。なんだか金森くんには、言葉だけではない何かを渡したかった。のだが、それがまったく思いつかない。


 ……仕方ない。こういうことは、同じく野郎の渡部先輩に相談してみるか。先輩は今、私の隣で瞳孔が開いた眼差しで天井を見つめている。正直、生きているかどうかも疑わしいが、私が声をかければその死んだ眼差しにも光が戻るだろうか。


「……ねぇ渡部先輩」

「んー? なんだ小娘……」

「ちょっと相談があるんですが」

「手短に話せよ? 俺は今死んでるんだから……」


 自分で『死んでる』とはどういうつもりか……と声を張り上げたくなったが、よくよく考えれば、平常運転の渡部先輩だ。先輩がこんな調子ということは、社内が平和であることの証拠だと思い直し、肩の力を抜くことにする。


「……金森くんって、何あげたら喜んでくれるのかなぁ」

「なんだお前、金森くん狙ってるのか」


 私の素直な疑問に対し、渡部先輩は当然の疑問を投げかけてきた。一瞬頭に血が登ったが、渡部先輩の言い方には私をからかってやろうという思惑はなく、むしろ興味なさげな感じだ。相変わらず瞳孔が開いた眼差しで天井見上げてるし。


「違いますって。あの件で金森くんにまだお礼言ってなかったなって思って」

「せっかくお前が人の妻に手を出さない真人間になったと思ったのに……小娘に期待した俺が愚かだった……」

「前髪以外の毛根全部むしりちぎってキューピーにしますよ?」

「永遠に3分クッキングしか出来なくなるからやめろ」


 とこんな具合で渡部先輩は天井を見上げたまま軽口を叩くのだが……そこは意外と力になってくれる渡部先輩。命を失った両目で天井を凝視しながらも、何か色々と考えてくれたようだが……


「んー……」

「……」

「……ダメだ思いつかん」


 約2秒後には白旗を上げていた。まぁ、今のこの人、死んでるからなぁ……それに、本来は私自身が考えなきゃいけないことだし。


「そもそも金森くんなら、何だって喜んでくれるんじゃないか?」

「そんな無責任な……」

「無責任とは何だ小娘」

「だって無責任でしょ後輩の相談に対して」

「こういうのは気持ちがこもってりゃ何でもいいだろうよ」

「んじゃ先輩は、薫お姉さまから変なTシャツもらっても、喜んで着ますか?」

「家の中でならな」

「え……」

「そもそもすでにもらってる」

「ホントですか……」

「あいつの手書き文字で『モスクワ大飯店』て書いてあるやつ」

「意味分かんないです……」

「俺に聞くなよ……本人頑張って作ったんだから……」


 薫お姉さまの意外な一面を知ったわけだが、それは今はどうでもいい。いやどうでもいいわけではないけれど……それよりも今は、金森くんへのお礼の品だ。彼は一体、何を上げれば喜ぶんだろう……


 渡部先輩が天井を見上げるをやめ、幾分光が戻った目で今度はパソコンのディスプレイを見つめた。マウスを持ち、カチカチとダブルクリックを繰り返してインターネットのブラウザを開く。一瞬何かのヒントをもらえるのかと期待したが、約1秒後の画面には、周辺のスーパーの特売情報が集うサイトが表示されていた。


「あとはー……そうだなぁ。弁当とかどうだ?」

「お弁当?」

「お前、金森くんとしょっちゅうランチしてるだろ?」

「うん」

「だったら金森くんの好物とか、食べられないものとか大体把握してるだろ」

「まぁ、大体」

「んじゃ金森くんが喜ぶ弁当が作れるだろ。ヤツの好物をてんこ盛りにしてやればいい」

「なるほど……」

「薫も初めての俺の弁当喜んでたしな」

「へー……」


 死んでる渡部先輩にあるまじき、意外とちゃんとしたアドバイス……その一つ一つをありがたく頭に刻み込みながら、私は金森くんの姿をこっそりと追った。


 金森くんは今、りんごのマークの入ったノートパソコンをパチパチと叩いていた。その顔は『友達・金森くん』から、いつの間にか『会社の代表・金森千尋』へと変わっていた。



 仕事が終わった後、私は近所の雑貨屋さんに足を運んだ。渡部先輩のアドバイス通り、私は明日、金森くんにお弁当を作ることに決めたからだ。


 決めたからには、まずは彼のためのお弁当箱を準備しなければ。うちにある男性用のお弁当箱といえば、親父が使っていたタッパーみたいなものしかない。タッパーは別にいいのだが、親父がかつて使っていたお弁当箱を金森くんにあてがうのが、どうにも納得がいかない。考えた結果、私は新しく彼用のお弁当箱を買うことにした。


 帰り際、金森くんに『雑貨屋さんに行くなら僕も付き合う』と言われたのだが、それは断った。だって、彼に渡すお弁当箱を彼の前で買うのは、誰だって嫌なはずだ。


 私が断ると、彼は妙に意気消沈して、しょんぼり家路についていた。すまん金森くん……明日埋め合わせはするから。しかし、たったそれだけであんなにがっくりと肩を落とすとは……。


 私が来たこの雑貨屋さんは、オシャレな台所用品や掃除用具だけでなく、安価なアクセサリーや収納、おもちゃや海外のお菓子など、品揃えが幅広い。そのお店の展示品を眺めながら、私はお弁当箱が置いてある一画を探す。


 途中、オイルライターが並べられている売り場を見つけた。色々な種類の柄のオイルライターに混ざって、ひときわ大きくてまるっこい、銀色のものが妙に私の目を引き、それを私は手にとった。


「……あ、これ」


 それには黄色の小さな手書きのポップが貼られていた。ポップには『ハンディウォーマー』『寒い日もポカポカ! おすすめです!!』と書かれていた。


――ハンディウォーマー。ライターオイルで温めて使うカイロ


 大晦日の日のことを思い出し、少しだけ顔が熱くなった。金森くんのポケット、暖かかったなぁ……今私の手の内にあるハンディウォーマーは金森くんのそれと違ってひんやりと冷たいが、その冷たさが妙に心地よい。


 そうして店内をうろつくこと数分。目当てのお弁当箱売り場を見つけた。……しかし、その種類の豊富さに圧倒される。その中から、私は金森くんにぴったりなお弁当箱を見つけなければならない。


 最初に、真っ黒で寸胴の電気ケトルのような、保温タイプのお弁当箱を手にとった。これなら作ったお弁当を温かいまま食べることが出来るし、お味噌汁やスープだって持っていくことも出来る。機能的といえば機能的だが……なんだかゴツくてかわいくない。


 それに……


――あづぅうッ!?


 ……うん。なんだか金森くんには、熱いお弁当を持って行きたくない。彼は喜んで食べるだろうけど、口に入れた途端に悲鳴を上げて舌をやけどする姿が、目に浮かぶようだ。


 少し変化球で攻めてみるか? 次に目についたのは、木製の真四角の折箱。これがイイものなのかどうかはさっぱりわからないが、大きさも私の手の平より二回りぐらい大きくて、そんなに悪くない感じ。仕切りもたくさんついているから、配置にも色々と気を配れそう。


 ……だけどなー。これじゃあなんだか仕出しのお弁当みたいで、大げさというか何というか……第一、なんだかかわいくない。


 だったらいっその事、使い捨ての紙製のものにするか? 次に私の目についたのは、紙で出来た折りたたみのお弁当箱。使い終わったらそのまま捨てられるタイプで、これなら帰りに会社に捨てていけば荷物にならないし、色や柄も豊富だ。


 ……だけど、どうしても使い捨ては買う気にならない。多少値が張っても、金森くんには、くり返し使えるお弁当箱を持っていきたい。


 中々決まらない。どれもこれも決定打に欠ける……そう思いながら、プラスチックで出来た灰色のお弁当箱を私は手にとった。


 そのお弁当箱は実にオーソドックスだ。形は長方形で、大きさも私の手の平より少し大きいぐらいでちょうどいい。赤のアクセントが入った蓋には、箸を収納する箸入れもついている。中を開けてみたら箸も入っているから、これを買えば箸と箸箱を買わずに済む。


 そのそばには、もう一回りだけ小さいお弁当箱もあった。大きさこそ一回りほど小さいが、形も材質も、真っ赤なアクセントも何もかも同じ。私が手にとっているものをそのまま小さくしたような、そんなお弁当箱だ。


「……よしっ」


 決めた。私はこの2つを買う。大きい方を金森くん用にして、小さい方は自分用だ。本当は私と金森くんはほぼほぼ同じ量を毎日ランチで食べているから、まったく同じ大きさのものでも構わないんだけど……そこは女の子としてのプライドもある。彼より少し小さめにしておこう。まったく……私がこの体格の割によく食べるのか、それとも金森くんが男であの体格の割に少食なのか……疑問が尽きない。


 そのお弁当箱2つをレジに持っていき、お会計を済ませ、私は家路につく。……と言っても、私が今日帰るのは、いつも通りの自分の家ではない。自分の家から10分ほど歩いたところにあるマンションの、三階にある一室だ。


 右肩からは仕事用のバッグを下げ、左手にはお弁当箱が入ったビニール袋をぶら下げて、マンションの階段を登る。エレベーターを使ってもいいが、目当ての階数は三階だ。ならエレベーターを待つよりも、階段で直接向かった方が早い。階段を登り……渡り廊下を進んで……目当ての部屋の前に来た。


 入り口ドアを眺める。表札には『小塚』の文字が掘られている。そう。ここは愛する小春さんと去年に結婚した、兄貴の家だ。


 ドアを眺める。あの、思春期の私の頭を散々悩ませた、トチ狂っているとしか思えない『おっぱい教極東支部』の立て看板はない。兄貴も結婚して真人間になったということか。それとも、さすがに公にはしないものの、今でもあの変態性は持ち合わせているのか……それは、この入口からはわからない。


 でも今回、私が用があるのは、あの元変態兄貴ではない。私はピンポンを鳴らし、インターホンから返事がするのを待った。


『……はい。どなたですか?』


 とても穏やかで、インターホン越しに春風を感じるような、優しい声が周囲に響いた。そう。私が用があるのは、兄貴ではなく小春さんだ。


「小春さん? 真琴です」

「ぁあ真琴さん! ちょっと待ってくださいねー?」


 インターホンの向こう側の小春さんは実に嬉しそう声でそう言うと、インターホンを切った。程なくしてドアの鍵がガチャリと開き……


「いらっしゃい真琴さん!」


 その向こう側から、小春さんが満面の笑みとうるうるした瞳で出迎えてくれた。相変わらずピンク色のエプロンとふんわりとしたロングスカートがよく似合う。薫お姉さまと同じぐらい、可憐でキレイな人だ。


「えっと……突然ごめんなさい小春さん」

「真琴さんならいつでも大歓迎ですよ? で、どうしました?」

「あの……明日、お弁当を持っていきたくて……」

「お弁当ですか?」

「うん……それで、小春さんの力を借りたくて……」


 『なんでまた突然?』とでも言おうとしたのだろうか。小春さんは一瞬何かを口にしようとして、すぐに口をつぐんだ。そして私の顔をまっすぐ見てニコリと微笑んだ後、


「……分かりました。大好きな妹のお願いですから、お姉ちゃんはがんばります」


 と、とてもうれしそうに言ってくれた。華奢な両手で力こぶを作り、それを私にこれ見よがしに見せつけながら。


「ありがとう小春さん」

「いいえ。だって……ねぇ」


 お礼を言った私に対し、小春さんはくすくすと笑いながら、私の左手を指差す。ぶら下げたビニール袋が透けて、2つのおそろいのお弁当箱がうっすらと見えていた。

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