水狐くんには不幸がお似合い
古新野 ま~ち
複製された女
第1話 複製された女
どんどん追い詰められた私は、最も混乱してさせてしまうかもしれない言い方しかできませんでした。最近起きていたことを旦那に話ました。私が言うのもあれなんですけど、彼はとてもいい人なんです。しばらく実家に帰るよう言われて、こっちは僕だけで何とかするし、振り込みもするからってことで、こっちに戻ってきたんです。
相次いで私が至るところで見つかったり、しまいには知らない男から次はいつ会えそうかなんて電話も来ました。かなり年上のおじさんからでした。彼の同僚にも昨日のことは内緒にしておきますから、なんて言われて、もう彼に隠しきれそうになくなったんです。
奈良に戻って2週間ほど経ち、処方された薬も無くなりましたしいつまでも彼から逃げるような事をしているわけにもいきませんでした。母には止められましたが、どうしてもって振り切るかたちで大阪の自宅に戻りました。
前もっていれた連絡にも返事が無くて、先に家についちゃいました。夜までに食事を整えようかと思いましたが、やっぱり怖くて、スーパーの弁当を買ってしまいました。そういえばと、全くゴミが見当たらなくて、さては外食ばかりだなと少し叱ってやろうかなと待っていたわけです。
でも、彼が一向に帰ってきませんし、明日も平日なので仕事なのではと心配になりました。営業職だから飲みが多かったのですが、それでも夜中の1時を過ぎるなんてことは、今まで無かったんです。何度も連絡しましたが通じません。
次の日の9時頃に、職場に電話を入れたら、向こうも上ずった声で彼のことを知らないかと言うんです。
すぐに警察に失踪届けを出しました。けれど進展はないようです。城野さん、どうか助けていただけませんか。
僕の就職活動が無事大失敗に終わり法律とは無縁の振りをして従業員には餓鬼のような生活を強いる低賃金の職場にもぐりこんだため、あれまという間に私は精神を病んでしまったらしい。
目が覚めると、このご時世に珍しいほど親しみ深いアパートの管理人老夫妻の部屋にいた。
「ミズキくん、夜中に泣きながら車の前に出ちゃったんだよ」
なるほど、僕はそれで接触事故をしてしまったのか。
「ちがうよ、車は止まってくれたけど、君が泣きながら土下座を繰り返すものだから困り果てた運転手が警察に電話して、なんとかここに戻ってこれたんや」
その光景を覚えているはずもかった。
「その運転手さん、偶然にも心療内科のお医者さんらしいからって名刺まで頂いたんよ」
名刺を受け取り、管理人宅を後にした。無断欠勤ということになるが、路上に躍り出るような精神状態の者が何かできるとも思えない。これで良いのだと納得した。
あぁ、なるほどと納得した。自分が部屋を飛び出したのか、またなぜ土下座をしたのかその理由がわかった。正確には、思い出したというべきだろう。
部屋の中央に敷きっぱなしの布団があり、布団を覆い隠すほどのダンゴムシが鎮座している。
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