お仕事その2 「働いたら負けでしょ?」

「・・・あのー、とりあえず働いてみようとかは考えないんですか?」

「え、働いたら負けでしょ?」


本日のお客様・ニート。


「ニートがぁ!!働けよ、とりあえず働いて見ろよぉ!!こちとら高卒でここで働いてんだよ、大して月給も高くないのに!お前、私より年上だろ!?それなのになんでニートで堂々としてんだよ!」


・・・と、喉まで出かかった。

ただ、一応相手はお客様。ここは大人になれ、レーネ・・・。


「ぐぐ、ぐぐぐ・・・」

「ん?どうかした?」

「い、いえ~、何でもありませんよ~」


精一杯の営業スマイル。

落ち着け私・・・。仕事、仕事・・・。


「ただ、大変お伺いにくいのですが・・・」

「何?」

「・・・お金、あるんですか?」

「やだな~、あるわけないじゃん」

「・・・じゃあ無理です」

「え?」


きょとーん、と彼は目を丸くさせる。


「えぇぇえええええ!?お金ないと無理なの!?だって、ニートと異世界転生とくれば切っても切れない間柄じゃん!!」

「それは世間のプロパガンダです・・・。現実はもっとシビアなんですよ・・・」


私たちは何も慈善団体じゃない。

お金をもらった対価として異世界への転生プランを提供しているんだから。


「えぇ、思ってたのと違うなぁ・・・」

「はい、ですから今回は残念ですが・・・」

「うーん。あ、じゃあ裏コースでいいや」

「はい?」

「ほら、どこにでもあるじゃない?密入国やら裏口入国やらの裏ルートが。それでいいからさ、飛ばしてよ」


往生際悪いなぁ、こいつ・・・。

金がないと駄目だって言ってんのに・・・。


「いやー、そうは言われましても・・・。こちらもビジネスでやってるんで・・・」

「でもあるんでしょ?」

「ありません」

「本当は?」

「ありません」

「そっか・・・」

「そうです!ですから・・・」

「からの~」

「しつこいですね、ホントっ!!」


その執着心をここじゃなくてもっと別のところに使えないのかよ、このニートは!!


「で・す・か・らっ!!そういうのもあるにはありますが基本は頂いたお金に見合ったプランを私たちは提供─」

「ほら」

「え?」

「あるんでしょ、そういうの」

「あ」


・・・しまった。乗せられた。

にた~、としてやったりのドヤ顔を見せてくる。


「あぁ、もう!!いいんですか、どうなっても!!完全なランダム転生ならお金はかかりませんが、転生後どうなるかなんて一切保障できませんよ!?」

「心配ご無用だよ。僕は運だけが取り柄。だからこそ、今まで働かずして生き残ってきているんだから!」


つくづく腹立つな・・・。


「・・・分かりましたよ・・・。では最終確認です。

。それでいいですね?」


----------


「依頼してきた当日に処理するなんて珍しいね、レンレン」

「今日、家を追い出されて住む場所が無いんだってさ。お金も完全に無一文らしいし、このまま放っておいたら私たちが手を下す前に勝手に死ぬかもしれないし」


同日未明。

私は転生課のデュラルといっしょに例のニートを異世界に転生させるための処理に来ていた。


「お、いたよ、デュラル。高架下でダンボールに包まって寝てる」

「本当だ~。寒くないのかな?」

「さぁ?ま、一目のつかない場所っていうのは、仕事がしやすくて助かるけど。じゃあ私が結界を張っておくから、後はよろしくね」

「おっけ~」


異世界転生管理局、通称・異局は、現世と異世界を繋ぐ奇天烈な仕事であるため、そのメンバーは私も含め全員能力者で構成されている。


私の主な力は結界を張ること。

私が結界を張ることで外からは何者も干渉できなくなる。私はデュラルと私とニート全体を包むように球状に結界を張った。


此方辺こちらべの音、感じ給え。彼方辺あちらべの声、響き給え」


デュラル・ハン・コキュートス。

私よりも3つ年下の18歳の女の子。

詠唱を始めた彼女の右手に、みるみると闇を纏った巨大な鎌が錬成されていく。


「案ずる事勿れ。痛み無くして天昇せん」


彼女は鎌を構えた。

いつもはふわふわ~とした優しい雰囲気のこの子だけど、だけは眼光鋭く真剣な眼差しになる。

─依頼者を殺す、この時だけは。


命の刈り取りガイロティーネ


血は吹かない、痛みもない、傷もない。

まったくもって気づくことなく、ニートの命は幕を閉じた。

相変わらず、目にも止まらぬ早業だこと。


「─開け、異界への門」


彼女は間髪入れず、今度は異世界への門を召喚した。数10メートルはあろうかという門が顕現し、ぎぃっと巨大な扉が開いた。


「レンレン・・・。さすがに材料がこれだけしかないのは無茶だよ~・・・」

「そんなこと言っても、費用がないし仕方ないって」


人間を別の人間へと再構築する場合、必要になるのはもともとの人間の体の一部。当然、材料があればあるほど質のいい体を作れるけれど・・・。


「だとしても・・・髪の毛一本と心臓の欠片1mgって本当の最小単位だよ・・・?」


デュラルは命といっしょに刈り取っていた髪の毛と魂を私に見せる。本来ならば門の中にデュラルもいっしょに入って依頼者の希望通りの姿に形作るんだけど、今回は超節約格安ランダム転生プラン。ただ門の中に材料をれるだけだ。


「確かにいざ確認されるとあまりにも無謀だけど契約は契約だし」

「・・・分かった。いくよ『再構築リコンストラクション』」


禍々しく漆黒で渦巻く門の中へと、ニートの髪の毛と魂が吸い込まれたのち、門の扉は閉まり、そして、消滅した。


「よし、無事終了っと」

「う~、不安だよ~、どうなるのかな、あのニートさん・・・」

「いいの、気にしないで。私たちはただ契約通りに事を進めただけなんだから。あとどうなるかはあいつ次第」

「むぅ・・・。あれ?このニートさんの死体はどうするの?」

「ああ、今回はね・・・」


お金を支払ってくれている人だったら、死体も丁重に扱うんだけれど、今回は。お金が無いなら、別のもので払ってもらう必要がある。


「それじゃあこっちは終わったから。後はよろしく、死体処理課の方々」


------


後日。


「よぉ、レーネ!例のニート、無事異世界に送れたんだってな」

「まぁね・・・。ただ、今回は久々の完全ランダム転生だったから、あいつが異世界で上手くやれてるかなんて一切分からないけど」

「ちょっと確かめてみるか」

「止めときなよ、どうせ大したものに転生なんかできやしてないって。良くて一般市民、最悪そこらへんの雑草だって」


まったく、働きもしないのに楽に能力を手に入れようとして・・・。

あいつなんか異世界で散々な目に合えばいいんだっつーの。


「お、いたぞ、レーネ」

「う~ん?」


私はあいつが映っている映像を見た。

偉大なる魔法使いの炎獄グレイトフル・ウィッチーズ・フレイム


「ちょっと、映像間違ってるよ?」

「いや、間違ってないぞ」

「へ?いやだって、例のニートの転生後の姿を確かめるんでしょ?」

「ああ、だからこれだ」

「・・・」


「えぇぇぇええええええ!?」


何十万という敵を前に、呪文を唱え余裕綽々でばっさばっさと倒す無双チートの魔法使いがそこには映っていた。


「へぇ、あいつ、本当に運良かったんだな・・・」

「・・・ふ、腑に落ちねぇ・・・」


次回に続!


【ちょっと教えて!異世界転生!】

Q、転生させるときって事故死とかじゃないの?

A、もちろんそのパターンもあります。

普通の生活をしていると不幸な偶然が重なって死んでしまった、という状況を作り依頼者を転生させるのが一般的ですね。

ただ、今回のように依頼者の体そのものが資本の場合、事故などで体を傷つけるわけにはいかないので、専門の人の手によって転生します。

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